第一話 ミスを犯す

1/1
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

第一話 ミスを犯す

「無理してない?」 (たく)の表情を見て、判断を間違えたかなと思った。 誕生日でもなんでもない日に彼に突然プレゼントをあげたのにはもちろん理由がある。 「えっと・・、何の日だったか正直思い出せないんだけど、サンキューな!」 「・・・。人って、嬉しい時は喜ぶものだよね」 拓は追い詰められたような顔をして何言ってるんだ、嬉しいよと私にキレてくる。 「その割には目の奥が死んでるようにみえるんだけど」 睨みつける私に、彼はしばらくの間外の世界にいなかったのだから仕方ないだろうと吐き捨てた。 「それさあ、めっちゃ手に入りにくかったんだわ」 拓よりもさらにキレる私に、彼は優里(ゆうり)の期待通りの反応ができなかったのは悪かったけどさと言った。 拓の反応がどうしても許せなかったのは、彼が今手にしている物を私は成り行き任せで買ったわけではないからだ。 「優里なりに腹を決めて買ってくれたんだな」 「・・・・・・」 時をさかのぼること一週間前、バイト先の後輩の玲奈(れいな)のSNSの中に、悪意に満ちた文章を見つけてしまった。 『出会いの連鎖に感謝♪』 彼女は神経が鈍麻(どんま)しているのか、あろうことにかバイト終わりの拓と腕を組んで自撮りをした写真をアップしていた。 「少しでも若い子に軍配が挙がったのかねえ」 不安に占領された私は、脇目もふらず、拓の親友の理人(りひと)のところへ押しかけて相談をした。 「いやいや、玲奈と私の年齢に大した差異はないわよ。それよりバイトの先輩の彼氏と普通堂々とイチャイチャしたりする?それに拓も大枚はたいて用意した物を微妙な顔で受け取ってたし」 理人はちらりと私を見ると、まあまあ、優里の財産が底をついたわけでもないんだろ?と適当になだめてくる。 私はため息をつくと、愚行だったと後悔した。 拓に勢い込んで贈り物を買ってしまったことも、理人に相談したこともどちらもだ。 「やめ時なんじゃない?」 「何がよ」 「拓から恩恵が返ってきたことある?」 「・・・・・・」 言葉につまり、自分は拓に何かをしてあげて、喜んでくれれば十分満足だからとこぼす。 「ところで何買ったの?」 「・・・。聞かない方がいいと思う」 理人は目を細めて、俺が引きそうな物?と訊ねてくる。 「うーん、そうかも・・・」 「なんとなく何だか想像できるんだけど、まあそれが優里の考えた末の行動だったならいいんじゃねーの?」 私はそうだねと言うと、しかし玲奈のSNSはいい気分がしないと大きなため息をついた。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!