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陰翳【宗太郎編】
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▪陰翳シリーズ/宗太郎独白。
▪時系列:復讐断罪編~
▪暗鬱。コイツは相当狂っておられるので閲覧御注意。
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まるで絶望の闇底を突き進んでは引き返して、また突き進んでは引き返して……それを安易に繰り返しているようだ。
背中に纏わりつくように流れ出る汗が鬱陶しい。ついでに、耳を掠める嬌声も煩わしい。
何時だって、耳に甘く溶けそうな程に響き渡るのは白夜の声だけ。
こういった時のふとした仕草が可愛いなんて思うのも、白夜しか居ないよ。俺の一番は、彼女だけなんだ。
しがみついてくるように首に回された手。俺を求めてくれるのは嬉しいよ? でも一番に求められたい相手は、残念ながらお前じゃない。
感触も、温もりも、香りも、絡み合う糸も、懐乱な雰囲気も、全て白夜が一番なんだよ。
“好きだ”、“愛してる”ーーあと何回言えば、白夜は振り向いてくれたのかなぁ……?
何度何回繰り返しても、君は解ってくれなかった。
俺は何時だって君の目の前に……すぐ傍に居たのに。
触れ合おうとすれば、嫌悪感を吐き出すかの如く払い除けられた身体。
俺から差し伸べた手は握ったその癖に、求めれば拒絶され、見つめれば睨み返してくるだけ。
与えたら与えた分だけ、跳ね返された愛情。
彼女のそんな所だけは、どうしても受け止める事が出来なくて、いつしか俺は逃げ出した。ほんの少しでも良いから、安らぎが欲しかったの。捌け口が欲しかったんだ。
でもその結果がこれなんて、運命は残酷だね。神様って、俺なんかよりよっぽど残虐。そうとしか言い様がないよ。
だって、俺から白夜を引き離しちゃったんだもん。
そして俺達の歯車を狂わせ、壊しちゃったんだからね。
君を一番に愛してるのは俺。君が一番に愛してたのも俺。
この気持ちだけで充分だったじゃない。なのに何故君は、俺を見てくれなかったのかな。
君の復縁したい気持ちを揺らがしたもの。
それは自身の身体の障害(不妊)じゃなく、この女だったって事も、俺は十二分に理解してたよ。
君は優しくて、そして狡いから。障害を盾に、この女を闇討ちしようとしていたんだよね。
甘えてくれれば良かったのに。そうしたら、消したのに。
君が本当に望む事なら、何だってしたよ俺。解ってたでしょ、それ位。それは今まで腐る程、証明し続けてきてあげたんだからさ。
嗚呼ーー何でかなぁ……
全く以て理解が追いつかないよ。君が俺に刃を向けるその訳が。
けれどね、それが少しだけ嬉しくもあるんだ。
どんな姿でも、どんな経緯でも構わない。
また君が俺の目の前に現れてくれるのなら、それだけで確かな幸福と安堵が此処にはあるから。
大丈夫。糞蛙(空吾)に踊らされてるだけなら、俺が君の笑顔を取り戻してあげるよ。絶対だ。
白夜に笑顔を咲かすのは、何時だって俺の役目だから。
誰よりも優しい白夜の事だもん。俺が一生懸命になれば、必ず笑顔で応えてくれるし、力一杯に抱き締めて、よしよししてくれるよね。
だったら、早く逢いたい。君に凄く逢いたいよ、白夜。
声を聞かせて? どんな冷たい言葉だって、今度は受け止めてみせるから。だから、俺の耳にいっぱい響かせてよ。君の透き通った その美声を。
見つめてよ。睨むんでも良い。どんな冷たい眼差しでも、今度は優しく見つめ返してあげるから。
もう一度だけ、その空を描いた瞳の中に俺を吸い込んで。
そうしたらきっと、見えてくるよ。俺の本質が手に取るように理解出来ると思うんだ。
何時だって、この世で一番、君を愛せるのは俺だよ。いい加減、気付いて欲しいな。
君が俺だけを望むなら、どんなものでも消すから。
俺達の邪魔になるものは全て、俺が闇に還してあげる。
君が俺の所へ戻って来るのなら、身勝手な愛を共有出来る世界を保証しよう。
倫理も、正義も、大義も、矜持も、もう何も要らない。
互いに理性を一切合切捨てて、本能だけに従おうじゃない。
そうしたらホラ、見えるだろ?
俺達にとって何が一番大切で、何が一番邪魔なのかがーー
「……宗太郎?」
「何?」
「何っ……、考えてるの?」
「へへっ……姫月の事」
そう。お前の事だよ。お前が一番、邪魔なんだよ。
可愛いよ。好きだよ、多分。
昔から大事な仕事仲間、掛け替えの無い家族だとは思ってるさ。
でも、所詮白夜には敵わない。白夜と比較したら、お前は蛆以下の下等生物にしかならない。
だから白夜が俺の傍に戻って来たその時はーーさっさと逝けよ。
面倒臭いの。白夜を想えば想う程、全ての柵から解放されたくなるんだよ。
白夜の影を追えば追う程、快楽が虚無に変貌していくんだよ。
逢いたい。君にどうしても逢いたいよ、白夜。
あと何回、尾篭な夜を繰り返せば君に逢えるのかな……
嗚呼。早く逢いに来てくれないと俺、壊れちゃう。
こんな女に壊されるのなんて御免なんだ。君が俺を壊してよ。
ねぇ、白夜。 早く……、早く、俺を求めに来て?
その空色の瞳で俺の心を抉って、掻き乱して、ぐちゃぐちゃにして。この虚無をさっさと混沌の渦に変えておくれ。
君に酔いしれ、呑まれていく感覚は、どんな形のものでも堪らなく心地が良いんだ。
ほら……、君への想いは完成された愛情だよ。
白夜の中で、これに勝るものってあるの? 無いよね。有る訳が無いよね。
孤独を忌み嫌う君は、どんな時でも愛情を無くさない俺が一番な筈だもの。
赤い糸は切れちゃったから、次は鮮血が俺達を結んでくれるんだよね。
小指でも渡せば、もう解かれる事も、切られる事も無くなるのかな。それなら喜んでそうしてあげるから、早く戻っておいでよ。
俺が白夜って呼んだら、名前を呼び返してくれなきゃ寂しいよ。つまんないよ。虚しいだけだよ。
だから、ねぇ……、白夜? 白夜ぁ……
END
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