いざ! 入寮日!

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いざ! 入寮日!

【さよなら田舎、こんにちは都会】  3月も終わり、4月。新しい出会いが到来する予感にワクワクしたり不安だったりする季節。ぶっちゃけ、なんだかんだと浮き足立ってる。  特に田舎から街へと出てきた人間のそわそわ感といったら……一発でバレるレベルかもしれない。  一人用のキャリーを転がしながら息を弾ませホームに降り立ったこの少年、仁科薫(にしなかおる)もまた、例に漏れず田舎から街の高校へと進学を決めた一人である。  田舎はとにかく山の中、人より野生動物とのエンカウント率が高い場所。中学までバスで片道1時間。流石に高校はこの生活から抜けたいと、この春より寮付きの男子校、乙沢高校(おとさわこうこう)への進学を決めたのだ。  初めての寮生活。同級生や先輩との共同生活に憧れが先走っているが、その前にまず街の人の多さに浮き足だって辺りをキョロキョロしてしまう。まず、電車が8両編成ということに驚いている。 「すげぇ……山がない。ビルばっかで人多い。ってか、俺何番出口から出るんだっけ!」  既に、迷子の予感がする。  構内マップの前にいるのだが、そのマップの見方が分からないという悲しい現状。なにせ仁科の地元駅は無人駅だ。出入口は一つのみ! 「どうしよう、俺……駅から出られないかも」  ちょっと泣きそうだ。こういう時、田舎なら皆が顔見知りみたいなもので、困っていたら声を掛けたり掛けられたりの助け合い。だが、街ではそういう気配がない。田舎、心が温かかったんだな。  ダメだ、泣くな! 男の子だろ!  気合いを入れた仁科が真剣にマップと睨み合い、メモしてきた地図を握りしめていると、不意に誰かが肩を叩いた。 「あの……もしかして、迷子かい?」 「!」  振り向いたその先にいたのは、長身の男子だった。多分、高校生くらいだと思う。黒髪で、目尻の下がった優しそうな顔をしている。 「あっ、突然声をかけてごめんね。困ってるみたいだったから」 「あっ……あぅぅ」  街、捨てたもんじゃない。ちゃんと優しい若者が存在した!  思わず泣きそうで目を潤ませた仁科に、彼の方が驚いて慌ててハンカチを出してくれる。綺麗にアイロンがけされたクマさんハンカチだった。  ……いい人だから、ね? これがきっとギャップ萌えとかいうのだよ、うん。 「あの、それで……どこに行きたいの? よければ道、教えてあげるよ?」 「本当ですか! あの、俺、乙沢高校の寮に行きたいんです!」 「え?」  涙を拭いて勢い任せに言った仁科に、彼の方が驚いた顔をした。首を傾げると、彼は今度はとても優しげな顔で笑ってくれた。 「なんだ。君、今年の新入生なんだね」 「え?」 「俺、乙沢の生徒なんだ。今年3年の三宅鉄太(みやけてった)。よろしくね」  うそ……マジか…………超ラッキー!! 「俺、仁科薫です! よろしくお願いします、三宅先輩!」 「うん、よろしくね仁科くん」  こうして仁科は幸運にも、優しそうな先輩三宅をゲットしたのであった。 
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