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プロローグ
人生で初めて、振られた。
今までにない経験、感覚、感情。
ある6月の水曜日、日付が変わろうとする夜更けに雨の音が聞こえる。
家主を失った1DKの部屋に残された私は、初めての感覚に戸惑っていた。
しかし悲しみに暮れるでも、打ちひしがれるでもないのが、私らしいと思う。
恋人に、君のことはもう好きではない、と拒否されること。好きであるという思いが自分からの一方通行で、相手からは何も返ってこないこと。
周りの女の子達がカフェでよく話している失恋というのは、きっとこんな状態なのだ。辛くて悲しくて悔しくて、誰かに気持ちを聞いてもらいたくなる。
…人もいるのだろう。
私は?分かっていた。こんなにも冷静なのだから。悲しむ前に、戸惑っているだけなのだから。涙なんて、一筋も流れないのだから。彼のことは確かに好きだ。もっと一緒にいたいと思う。カフェの女の子達は、私と同じ気持ちじゃないの?どうして私は、涙が出ないの?
…考えても分からなかった。考えても分からないことは、考えても仕方がないのだ。考えるのを止める。
「…初めて、振られちゃった」
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