第1章

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 梅雨に入って雨が続く中で、思い出したようにからりと晴れる日が訪れることがある。今日がその日で、昨日までの重苦しい雲がお昼までにはうそのように消え去っていた。こんな日は… 『ランチ、外いこっ』  お昼休み30分前、同期のユッカから私、同じく同期のヨーコに社内チャットが飛んでくる。もちろん賛成、すぐさま返事を打つ。いわゆる社食のないこの会社ではお昼時、外に出なければお弁当を買って、少ない休憩スペースを取り合って食べるか、自席でもそもそとPCと向き合って食べるくらいしかできないのだ。雨が続いていた最近はそんなことが続いており、いい加減外でおいしくランチが食べたい、と思っていたところだった。 『オッケー、ゲート出て左集合~』  ヨーコからもすぐ返事が来た。じめじめが嫌いな自称『晴れジョシ』の私たちはいつだって、からりとした空気と日差しを求めて身体が向いてしまうのだ。同期入社でも総合職と一般職の違いで一緒だったのは最初の研修だけだった、にもかかわらず自然と仲良くなった私たちは偶然にも子どもの頃から晴れが好きという、当然といえば当然の、でも言葉にされることはほとんどない共通点を見出していた。  区切りのいいところでデスクトップPCをスリープモードにして、時間には少し早いが席を立つ。エレベーターが混みだす前に1階まで降り、社員証をかざしてゲートを出て左を向くと、大きなカバンを肩にかけたユッカがスマートフォンを片手に立っていた。荷物が多いところを見ると、取引先のところに行ってきたその足でお昼前に会社に着いたのかもしれない。白のブラウスにサーモンピンクのパンツスタイルでかっちりし過ぎないOLルックに、髪を後ろで一つにまとめたポニーテール姿は活動的な印象を与える。ユッカこと白石(しらいし)由夏(ゆか)はバリバリの広告代理店営業マンなのだ。背の高い女性はパンツスタイルが良く似合う…などとぼんやり思いながら歩み寄ると、私を見つけて手を振ってくれた。 「お疲れお疲れ~、早いね」 「うん、今日は久しぶりの晴れだからランチも混むかもだし、早くしないとかなって」 「たぁしかに、特等席がとられないうちに行かないと!って言ってる間にヨーコも来たね」  ゲートの方を見ると、小さな白い花柄が散りばめられた黒のワンピースに身を包む細身の女性、瀬良(せら)陽子(ようこ)が歩いてくるところだった。身長は高くないものの、ウェーブのかかったロングの黒髪と化粧っ気のないシャープな顔立ちは、全体としてスラリとした大人の女性を思わせる。女性社員の多いこの会社の中でも、間違いなく美人の部類に入るだろう。目が合うと、ヨーコはニコリと微笑んで口を開いた。 「お待たせ。どこも混む前に、行きましょ」
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