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その男性の声に連れ戻されるかのように、星矢はふと我に還った。
「あ、ぁあ……、い、いや、は、話したいかだなんて……。そんなことができたら、僕の、いや僕だけじゃない、父さんや母さん、牧場のスタッフの人たちの仕事も遥かに楽になるし捗るよ。で、でも動物と会話するだなんて……。
できっこないよ。」
しかし、星矢の狼狽ぶりには一切意に介そうともしないその男性は、星矢に意味ありげな笑みを見せつけた。
「動物と会話できることが、それほどまでに驚愕に値することとはねえ……。逆に、僕の方がおどろかされたよ。
それじゃあ、君は僕とこの犬がどんな内容の会話をしたか、知りたいんだろうねぇ。」
一瞬、戸惑った表情になった星矢だが、それを振り切るかのように大口を開いた。
「そ、そりゃあ、知りたいに決まってるよ。だって、信じられないけど、おじさんと話したおかげで、この犬が大人しくなったのは事実なんだからね。」
「ああ、そうさ。その通りだよ。僕がこの犬が抱えている悩みを聞いてあげて、その上でアドバイスをしてあげたんだからね。」
この二人の会話の最中も、このゴールデンレトリバーは、大人しくお座りをしたまま微塵も動こうとはしない。そしてその目線の矛先は常にそのサングラスの男性に注がれている。
どんなベテランのドッグトレーナーでも、ここまで犬をコントロールすることは不可能に思える程だ。
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