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星矢は、今の今まで犬はもとより牧場で世話をしている動物たちのことは、誰よりも自分が一番分かっている、と自負していたのだった。
しかしながら、星矢の目の前にいるこの男性。
飄飄と語らい犬を扱いながらも、星矢も気づかなかった核心をついてくる。
いったいぜんたい目の前で繰り広げられるこれらの知識と能力は何処で手にすることができたんだろうか?
考えれば考えるほどに、星矢は思考の迷宮から抜け出せなくなる感覚に囚われてしまう。
「い、いやっ い、いいんだ、そうだ……。」
星矢が自分に言い聞かせるかのように、一人納得している。
男が不思議そうに星矢を見つめ、小首を傾げている。
「どうしたんだい?さあ、この犬の住んでいた家を探しに行こうじゃないか?
もちろん、君も付き合ってくれるよね?気になるんだろ?この犬のことが。」
「あ、ああ……、わかったよ、付き合うよ。でも、おじさん。ひとつ訊いてもいいかな?」
「何だい?僕に質問かな?」
「おじさんの左腕にはめてる腕時計、たぶん壊れてると思うんだけど、何で大事そうにまだはめてるの?もしかして、誰か大切な人から貰ったプレゼントとか?」
その途端、今まで終始和かであった男の表情に影が落ちるのを、星矢は見逃さなかった。
だが、それはほんの一瞬だった。
そして男が口を割った。
男が発したその言葉に星矢は再び、衝撃を受けた。
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