ある男

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引ったくり犯の男が必死の形相で走り抜けようとした時、運悪くあの光りが消え去った後に現れた謎の男にぶつかったのだ。 その拍子に手に握られていたバッグが放り出される。犯人は一瞬、拾おうとする仕草を見せるも、警官がこちらに向かって走って来るのを確認すると踵を返して走り去ろうとした。 あの謎の男は引ったくり犯に突き飛ばされた老婆を抱き起こしていた。 ーーーーそして、その側には先ほどまで引ったくり犯が握りしめていたバッグが。 そこへ、駅構内巡回中だった警官たちが駆け付ける。 その男と床に落ちたバッグを見るや否や。 「貴様か! 引ったくりは!現行犯で、このまま」 と、その様子に気付いたホームレスが割って入った。 「い、いやいや、おまわりさん。この人は犯人じゃあないよ!親切にも、犯人に突き飛ばされたお婆さんを抱き起こそうとしてれてたんだ!本当だよ!」 だが、ホームレスの戯言と不審がる警官たち。 ホームレスの言葉など意に介さず、無理矢理その謎の男を連行しようとする。男の方も、大して抵抗する素振りは見せない。 ホームレスは立ち上がって、警官たちを引き留めようとする。 行き交う利用客の中には、何事かと立ち止まり物見遊山でながめている者もいる。だが、大半は野次馬の延長線、どうこう関わり合おうとする者は皆無だ。 と、突然。 少年の声が、辺りの空気を一変させた。 「その人は、犯人じゃないよ!その人が言った通り、犯人に突き飛ばされたお婆さんを助け起こそうとしただけだよ!!」
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