ある男

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駅の改札口を抜けると、ようやく持田星矢の顔に安堵の色が浮かんだ。その生来の男の子にしては愛くるしい顔から緊張が解き放たれた。 春から塾への行き来が始まって、今は七月。だが、三ヶ月という時間では星矢が人混みの中電車での通学に慣れるには、まだ足りなかった。 その緊張から解放されるのが、最寄りの駅の改札口を抜けた瞬間だった。星矢はいつも塾帰りに寄るコンビニに足を向かわせた。 その時だ、星矢の視点がある一点で止まった。 あれ? あれは……。え?まだ、駅の中に居たの?何やってたんだ? あのサングラスをかけた不思議な男性だった。こちらに背を向けるようにしてしゃがみこんでいる。 そこには、1匹の犬が。きちんとお座りしその男性と向き合っている。 何をしてるんだろう………? 行き交う人々は怪訝な表情を浮かべ通り過ぎていく。中には、あからさまに嫌悪感を示す者も。 星矢はゆっくりとその男性の方に近づいて行った。男性と向き合う犬をよくよく見ると。 ゴールデンレトリバーであった。首輪はしている。だが、リードは付いていない。迷い犬だろうか? 星矢は不審がるも、その男性の後ろからそっと声を掛けた。 「おじさん、僕だよ。いったい、こんな時間まで何やってたの?それに、その犬はどうしたの?おじさんの犬じゃあないよね?もしかして、迷い犬とか?」 だが。 その男性は何かに夢中になっているのか、星矢の呼びかけにも全く応じる気配がない。ただひたすら、犬と向き合い真剣な表情で何かしら語りかけてる。 ええ……?も、もしかして……。犬と対話してる?そ、そんなバカな……。
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