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「故意の恋による鯉の乞い」
「甘いものが欲しぃい」
これみよがしにくねくねする彼女の頭の後ろでポニテの先が見え隠れする。
「ねえ聞いてる?あたし甘いものが欲しいの!」
確かにこう暑くちゃアイスのひとつも欲しくなるのは重々わかる。
「コンビニのかき氷でも……」
「ぶー」
「お気に……召しませんか?」
「メランコリックのソフトクリームがいい!」
「駅前の?」
「駅前以外のどこにあるのよ」
「ここからだと1キロ程ありますが?」
「ソフトクリームが欲しぃのお!」
どうやら僕の意見は聞く気はないらしい。
「1分!」
「ええっ!!」
僕の声を無視して左手首を裏返して可愛い腕時計を覗き込んで右手の人差し指をくるくる回す。
「GO!!」
「ええええぇえ!」
走り出す自分が情けない。
「ぜぇはぁ」
「ご苦労様!」
「さ……流石に一分は無理ぃ!ぜぇはあ……」
「イイのイイの!」
満面の笑みで差し出す右手にソフトクリームを渡す。
暑苦しいこの時期に何故に無用な汗をかかされねばならんのか。
乗りもしないバス停のベンチで足をぷらぷらさせる彼女は間違いなく可愛いが、ぼくが予想していたデートと違う。
ダッシュで買って来たソフトクリームを目の前でくるくる回してご満悦な彼女。
「ハイ!」
「んぶぅ!?」
いきなり突き出されたアイスを受け止めきれず閉じたままの唇でソフトクリームを受け止める。
「美味しい?ねえ美味しい?」
えーと、そうぐりぐりされては食べるどころではないんですが。
つか自分が食べたかったわけじゃないのか。
冷たいソフトクリームでぐりぐりされながら僕はにやけかかるほっぺたを叱りつける。
「美味しい?ねえ美味しい?」
ドヤ顔の彼女に僕は引き攣る笑顔を返す。
恋愛経験乏しい僕にだってわかる。
これって怒っちゃダメなパターンだ。
ソフトクリームでベチャベチャになっているであろう彼氏の顔を見つめて笑顔の彼女を横に置いて僕は思う。
恋ってこんなんだっけ?
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