2話 ご褒美

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「俺、どうしてもこの大学に受かりたくて……ねえ、だめ?」  前回お願いしたように、希望は瞳を一層潤ませる。両手を顔を前で組んで、じっとライを見つめた。  ライはずっと希望を睨んだまま、動きを見せない。  暗くて深い緑色の瞳を前にして、希望も負けじと金色の瞳をきらきらと輝かせた。  しばらく沈黙が続いたが、不意にライが表情を和らげる。 「……いいよ」  前回と同じように、ライは目を細めて希望を見つめる。口元は微笑みの形になっていた。  優しい声と表情に、希望はなぜかひんやりとした。先日のより明確で、はっきりとわかる。部屋を快適に冷やすための冷房とは違う、背後にぴたりと迫る悪寒だ。 「……ほ、ほんと!? ありがとう!」  けれど、了承を得たことで、希望は表情を明るくする。  自分が頼んでおいて、戸惑うのもおかしな話だと、多少の違和感など振り払うように、希望は笑顔を見せた。 「最初に、模試で間違えちゃったところ教えてほしいんだけど」 「その前に」 「?」  希望はテーブルに広げた、プリントや参考書等に視線を落としていたが、もう一度ライに目を向けた。  ライは相変わらず、うっすらと微笑んで希望を見つめている。希望はまたゾクリと、背筋が冷えた。 「お前はこっち」  ライはゆっくりと床を指差した。  希望は一度そこを見て、首は傾げながらも、素直にソファから降りる。ライが示したところで、自然と正座してしまったことに、希望はまだ気づいていない。 「俺はこっち」  ライもまた、希望と一緒に座っていた三人掛けの大きいソファから立ち上がる。  希望が首を傾げていると、ライは一人用の、両側に肘掛けのあるソファに腰を下ろした。足を組んで、肘掛けにを肘を置き頬杖をつく。背もたれには堂々と背を預けていた。  ライと希望は向い合わせになった。希望は「ライさんは足長いなぁ」と、改めて感心しながらライを見つめる。  しかし、ライを見上げていると、鼓動がじわじわと早くなっていくのを感じた。落ち着かない。 「……ライさん……?」  戸惑う希望を見下ろして、ライは口元を楽しげに歪めた。     「……お願いします、は?」      希望の頭の中で、本能の緊急警報が鳴り響いた。
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