苦さは甘く溶けて恋になる

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 関谷梓は、追いつめられていた。  今どき壁ドンをするヤツなんて居ないんじゃないかと思っていたのに、それを今まさに味わっている。しかも、放課後の空き教室で、だ。  何の罰ゲームだと怪訝な表情を浮かべながら、じっと目の前の男を見る。  すると「俺じゃダメか?」と、梓の目を射抜くように見つめ、男は耳元で囁いた。  梓は目を(しばた)かせ、眉根に皺を寄せる。 ――バカか、こいつ。  いいかダメかの次元じゃない。  まずもって男同士だし、なんでコイツと付き合わないといけないんだと、心底うんざりした様子で溜息を吐く。けれど、目の前にいる幼馴染の谷岡龍介は、鈍感なのか梓の溜息にも気づかないまま、いい男気取りの低い声音で喋り続けている。 「なぁ。梓には、俺しかいないと思う。俺にしときなよ。大切にするって」  梓を意識したであろう龍介の告白姿に、ますますイライラが募る。そのままキスが出来そうな距離までつめてきた龍介から急いで顔を背けた。 「お、お前、バッカじゃねーの?」  壁についていた龍介の右手を思いっきり払い、股間を蹴り上げた。 「――っぅ」  顔を歪め、股間を抑えながら梓が言った言葉が飲み込めないのか首を傾(かし)げている。 「なにが俺じゃダメか、だっつーの! ダメに決まってるだろーが」 「なんで?」  まだそんなこと言うのかよと、ウンザリしながら「頭わりーな」と吐き捨てる。 「だって、梓は少女漫画が好きだよね? だから、そのシチュで言ったんじゃないか。この前もこういうのがときめく、好きだって話してたじゃん。忘れちゃったの?」 「それは女子だったらって話だろ。わかる? お前と俺、男同士。普通に考えてないだろ」 「そんなことない。だって、梓は小さくてかわいいしさ」 「はぁ?」  龍介を睨みつけ、胸倉を掴んだ。
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