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気つけば、大声でそう叫んでいた。
息が荒い。何故かものすごく過呼吸気味で、身体の中に酸素が行き渡っていないような違和感が駆け巡る。
その原因が何なのか、熟考せずとも分かった。身体の奥底、心の奥底から湧いてくる常闇。それが私を急速に飲み込んでいっているのが臓腑全体で感じられる。
身体も己の意志に反し、小刻みに震える。理性でなんとか抑えようと試みるものの、その試行もむなしく身体は震え続けた。
「……あんたに何が分かるってのよ」
理性とは正反対に感情が溢れ出す。ドス黒く、粘っこく、今にも自分の全てを吞み込もうとうごめく感情が。
生まれてからずっと堅く堅く閉ざしてきた蓋を、粉々にされたような感覚。無理矢理こじ開けられたことで封じていた様々なものが溢れ出てくる。再び閉めようにも出てくるものの勢いが凄まじく、もはや閉ざすことも叶わない。
「良いわよね、あんたや弥平みたいな天才は。自然とやりたいようにやってれば、色んなことが身につくんだから」
彼の罵詈雑言の数々に応えるかのように、唇は勝手に言葉を奏でていく。
「私には何もない。特技もないし得意分野も何も。なのに、なのにどうして」
澄男は黙ったまま、私を見つめていた。彼のように罵詈雑言を呪詛のように吐きちらす私を。
彼は真顔だったが、その顔は一体何を思い、何を考えているのか。今の私にはわからない。感情に支配された私に、それを察する余地があるはずもなく。
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