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「なんでもありません!」
すぐさま彼から目を逸らし、なおかつ強く突き放す。痛ぇな、とイラつき気味に怪訝な表情を浮かべるが、頭を掻き毟り、すぐ面倒くさそうな顔に早変わりする。
「……んで、どうすんの」
照れくさそうに聞いてくる彼。迷いなどない。私は返すべき答えを決めた。
「戻ります。さっきも言いましたが、行く宛もないので」
私は技能球を懐から取り出す。澄男の流川本家邸新館の玄関を思い浮かべつつ、私の肩に澄男が手を置いてきた。
「どういう風の吹き回しだ? さっきまであんなに渋ってやがったのに」
唐突の手の平返しに困惑しているのか。それもそうだろう。彼からすれば、さっきまでの追憶を知る由もない。ずっと怒鳴り散らし拒んでいた女が、急に素直になるのだから当然の反応だ。でも。
「色々踏ん切りがついたんですよ。あなたと向き合ったときに、大事なことを思い出してね」
「あぁん? 大事なこと?」
「はい。大事なこと、です」
「なんだいそりゃ」
「黙秘させていただきます。またいつか、機会があれば話すかもしれません」
「懲りねぇ奴だな。本音ぶちまけろって流れから殺し合ったばっかだってのに」
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