5人が本棚に入れています
本棚に追加
「殺し合いには慣れてしまっているもので。どうしても聞きたいと仰るなら、もう一度殺り合いますか?」
「い、いいよ……メイドに身体貪り食われるなんざ、いくら死なないとはいえ二度とゴメンだ」
色濃い苦笑いを浮かべ、首を左右に振る。彼から殺意の類がないことを悟り、改めて本家邸へ戻る準備を始めた。
依然として期待できないし、する気もない。でも少しくらいは想像してみてもいいだろう。
私には肩書き以外に何もない。つまり失うものなんか何もないんだ。失うものが何もないなら裏切られても失わない。むしろ一度きりの人生、瞳に屈託のない真っ直ぐな熱さを宿らせる彼と一緒に暮らせば、何か得られるものがあるかもしれない。
いつか自分の青い瞳も彼のように翳りなく輝ける、そんなときが、もしかしたら―――。
私はこのとき、初めて抜け出した。十数年間すごしてきた、合理的という名の永久凍土から。
一度だけ、生きてみるのはこれで最後。難しい事は考えない。期待を裏切られるのも、色々失うことも、もう慣れた。だったら最後に一度だけ、自分の感覚にしたがって生きてみよう。
輝きを失わない、その紅くて熱い瞳が見る先を、自分の青く翳った瞳でも見てみたい。
ただ、それだけの想いを胸に―――。
最初のコメントを投稿しよう!