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荘厳ではあるが、そこはかとなく軽薄さが滲む声音。聞き慣れた父の声だ。初めて聞く者ならば凛々しいと感じるのだろうが、十三年間聞いてきた私からすれば、声音をわざと凛々しくみせて、醜い内面を取り繕うとしている意志が透けて見える。凛々しさの合間に垣間見える声音の希薄さが、その証拠だ。
演技臭い声音で外面だけでも綺麗に見せている父だが、実の娘だからこそ、実父水守璃厳の本性を知っている。取り繕う外面からは想像もつかないほどに、醜く歪んだ人間なのだ。未だ齢十に満たぬ女児の私を、全裸かつ野外での生活を強い、身体が壊れるほどの虐待的修行を平気で行う、そんな人間。
「私のような下賤の者に答えられることであれば、その全てにお答えするのが、私の責務でこざいます。ご主人さま」
私は無機質に、暗記していた定型文を淡々と読み下すような口調と声音で答えた。そしてそのまま、更に言葉を続ける。無機質に、淡々と。
「なんなりと、この下賤の者たる私に申しつけくださいませ」
ふむ、と璃厳は呟く。
満足などしているわけでもないのに、満足気の雰囲気を言葉から発しているのが丸分かりの呟き。しかし不快感などこみ上げはしない。そんなことは今更だからだ。
この男の前でどれだけ物事を``完璧``にしようとも、この男が満足することなど決してない。何故ならその``完璧``などというものは、この男にとって``できて当たり前``な事でしかないからだ。
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