地下街の歯車

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地下街の歯車

この街の空気は、ガスと蒸気で出来ている。俺は道端に散乱したチラシを拾い上げて、隣にいたジョジュアに見せた。 「見ろよ、政府がまた何かおかしな事をやり始めたぜ」 俺が渡したチラシをみた相棒は腹の底から響くような笑い声を上げた。 「おい、このチラシ、エリア5が紹介されてねえぞ!ついに街から消されたのか」 そういって、チラシを俺に押し返す。そのチラシをビリビリと破き、熱風に乗せて淀み切った室内へと飛ばした。俺たちは仕事へ向かうために、重苦しいガスマスクを付けて住み慣れた地下街を出る。外は灼熱の様な気温とは裏腹に、太陽の光も刺さないほどに曇りきっていた。 いったいこの気候でどうやって観光客を集めようというのか。相変わらずぬるま湯に浸かりきった中心街の奴らの考えることは、現状とはかけ離れた夢物語ばかりで反吐が出そうになる。 この街が出来たのは、約5500年も前のことになる。技術に固執しすぎた奴らが、他の国からの干渉を受けず、なおかつ人が寄り付かないこの砂漠の地に街を作ったのが始まりだと言われている。他の国の技術がこの街の技術を追い越し始め、財政難を受けて他の事業に慌てて手を出したのだ。人を寄り付かせないという目的でこの地に街を作ったのに、何とも滑稽な話だ。 「しっかし、受注数が減少していくのが現実なんだよな。このままだと、俺たちのクビも危ないぜ」 「仕方ないだろ、先の事を考えて動けるのは余裕のある奴らだけだ。飯や宿代を稼ぐだけで、1日が終わる俺らには縁のない話だ」 「違いないね」 そう相槌を打ちながら、焼いた肉の塊や貴重な果物を次々と流し込んでいく。俺たちの生活が常に困窮しているのは、コイツのエンゲル指数が高過ぎる事も少なからず関連しているだろう。奴が最後の一切れを飲み込んだ時に、職場に到着した。 それと同時に、ジジイの元気な怒号が飛んでくる。 「遅えぞ、クソガキどもが!今何時だと思ってやがる!」 「うるせえな、朝から怒鳴んなよ!蒸気が肺に入って、地獄から迎えが来るぞ!」 俺もガスマスクを着けた上から、熱された蒸気を吸い込みそうな程の大声で応戦する。腰に下げた鞄から懐中時計を取り出して、時間を確認すると出勤時間から約32秒ほど遅れていた。 馬鹿じゃねえか、32秒の遅れで仕事に支障出るかっつうの。怒号を飛ばすのが億劫になった俺は、心の中で悪態を突くだけに留めた。ただでさえ、体力を持っていかれる仕事だ。余計な体力は消耗したくない。 俺は使い慣れた道具を手に持って、昨日の作業の続きに取り組み始めた。
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