地下街の歯車

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耳をつんざく程の音量で就業を知らせるベルが鳴り、作業していた奴らが手を止めて各自片付けをし始めた。体中が軋む様に痛い。 「やっと終わった。作業の進み具合はどうだ」 俺は横で道具を片付けていたジョジュアに話し掛けた。 「途中で材料運ぶのを手伝わされたんだぜ、終わる訳がないだろ」 そういいながら、材料を削る際に出た鉄くずの塊を床に叩きつける。金属音が反響して暫く工場内に響いた。近年は作業員の数も不足し、下っ端の仕事も押し付けられる様になってきた。作業に集中出来ない事も増え、環境は悪化し続けている。 「この環境で品質とか生産性の向上を要求されると、熔炉の中に突き落としたくなるな」 ジョジュアは違いないといいながら、また腹の底から響くような笑い声をあげた。 「あぁ、たまには繁華街にいってぱぁっと派手に遊びてえな」 鞄を持って、作業場を後にしながら俺がそういうとジョジュアは 「金がないだろ、金が」 と手をひらひらと振りながら言った。だが、そろそろ鬱憤や欲求が溜まってくる頃合いでもある。適度なガス抜きは必要だ。 廃れた街を歩き続けて、しばらくすると見飽きた仮設の建築物が連なる場所へ入った。此処の住人は濁った眼をしながら、明日の飯や生活を考えて生活している。誰一人として裕福な生活を送っている者はおらず、妙な一体感が街の中には漂っていた。 「よぅ、ガンマ。今日の調子はどうだった」 道端で缶詰を拾っていたジイさんが、俺に声を掛けた。鉄くずを集めて売りさばくつもりなのだろう。買取りの値段は落ちているが、何もないよりマシだ。 「工場内も、結構キテるぜ。俺らのクビもいつ飛ぶか」 俺がそういうとジイさんはかすれた笑い声を上げた。その後、肺に何かが入ったのか激しくむせ始める。 「馬鹿じゃねえの、こんなところで大笑いするなよ」 鞄の中から、ボトルを取り出して放り投げた。それを受け取ったジイさんは、蓋を開けて一息に濁った水を飲み込む。しばらくして呼吸が落ち着いた後 「俺はこのまま肺がイカれて死ぬのも悪くないと思ってる」 そういいながら、ガタガタの歯をむき出しにして、にかっと笑った。その口の中に植えられた金歯が鈍い光を反射してキラリと光る。 「へぇ。死ぬ前に、その前歯を売って金を寄越せよ」 俺がそういうとジイさんは激怒して、突いていていた杖を振り回し始めた。俺とジョジュアはそうそうにその場から退散する。あれだけの元気があれば、簡単にはくたばらないだろう。
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