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「金に困ったら、これ売っていいから」
別れ際、彼がそう言って残していったのは安っぽいスイッチだった。
押したら「ポチッ」って擬音がしそうな感じの、見るからにスイッチ的な赤いスイッチ。
彼は「これブラックホール爆弾っていう一発で世界を滅せるなんかヤバイやつのスイッチだから、結構高く売れると思う」と言っていた。
もちろん私は信じてなんかなかったけれど、お金に困っていたのでフリマアプリを使って出品してみた。
商品名は「スイッチ」。そのままだ。
一番高い値段を付けてくれた人に売ります。説明文もこれだけ。
まあ、誰かがジョークグッズとして千円くらいで買ってくれたらラッキーかな……と思っていたのも束の間、秒速で10000万円の値が付き、それからあっという間に1100兆円になった。
*
世界のみなさんごめんなさい。たぶん私はもうすぐブラックホール爆弾のスイッチを誰かに売ります。一生遊んで暮らせるお金が欲しいから。これで世界が滅んでしまったら本当にごめんなさい。
本当にごめんなさい。と、謝罪しつつ、私は緩やかになっていく値段の上昇を尻目にスイッチの梱包を始めたのだった。
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