たとえそれがどんな罪だとしても、僕は君を

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 温かい。  ふと目覚めて、すぐ傍に『彼』の温もりを感じた。  サネユキ以外の人間が、こうやって自分と同じベッドにいることに、未だ不思議な気分がする。  それだけではない。  目覚めたばかりの身体に気怠い疼きを感じることも、嬉しいことなのにまだ慣れることができない。いや、これに慣れるようになることは、きっとないだろう。  ああ、それでもと、自分の隣で眠る彼の素肌の胸元に顔を寄せ、深く息を吸い込む。  彼の温かさが、また目覚める様子もなく、穏やかに上下するゆったりとした胸の動きが心地よい。  彼の存在に、こうまで気持ちが落ち着くようになったのは何時からだっただろう。  ハツキは顔を上げ、隣で眠るメールソー・テレーズの顔に目をやった。  長めの金色の睫毛に縁取られた、涼やかな目許が閉ざされた彼の寝顔も美しい。  間近で見る彼の顔に、いつものように手が伸びた。  うっすらと髭の浮いた顎から頬へ指を動かし、彫りの深い眼窩を軽く撫でる。  自分とは異なる、顎のしっかりとした男性的な輪郭や顔立ちに、少し羨ましい気持ちはある。それでも愛おしくてたまらない思いに嘘はない。  光り輝く見事な金髪と、男らしい美貌といった外見だけではなく、類い希なる能力と立派な家柄を持ち、少々周囲を顧みずに行動するきらいはあるものの、人柄にも優れたこの人を嫌うことなど、到底出来ないことだ。 『今だけでいい。今だけ許して』  サネユキにそう懇願して、この人を欲し手を伸ばした。  ──でも、そう。これは今、このほんの一時のこと。  彼に今以上こちらに踏み込ませるようなことは、決してさせてはいけない。  彼の顔に触れていた手を握り締め、もう何度目になるのか解らないけれど自戒を新たにする。  けれど何度そうしたところで、彼の笑顔や優しさ、彼の持つ眩しいまでの意思の強さ気高さ、そして自分に向けられる混じりけなしの好意に心は揺れ、彼の逞しい腕に抱き締められ、身の内に彼を受け入れる快感に、結局は身も心も溺れてしまうのだ。  今まで気づくことが出来なかっただけで、真の自分はこんなにも弱い人間だったということだろうか。  ──ごめんなさい。  その弱さでもたらされる害悪は大きい。その罪を贖う責任が自分にはある。だがその罪は大きすぎて、最早誰に、何に懺悔すべきなのか、そんなことも判別がつかない。  自業自得の苦悩に、深い溜息をつく。  ──君だけは……  それ以上の言葉が続けられない。
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