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ハツキが顔に触れていたからだろう。テレーズの目許が微かに震えた。
その様子を見て、ハツキは自分を抱く彼の腕から少し抜け出し、テレーズへ顔を近づけた。
目覚め間際の頬にそっと口づける。
ハツキが見つめる中、ゆっくりと瞼が開かれ、昼の光の下では若葉色に輝く彼の瞳が露わになった。
その瞳を覗き込みながら、ハツキは微笑した。
「おはよう」
「……ああ、おはよう」
寝起きで少し掠れているものの、軽く笑いを含んだ美声でテレーズが応じる。
起きたばかりの彼が目覚めのキスを求めてきた。
ハツキにとって、そんな挨拶は未だ面映ゆい。照れを微笑で誤魔化しながら、ハツキはテレーズの口許に軽く唇を重ねた。
キスをするハツキの頭にテレーズの手が添わされ、彼の舌が唇に触れてくる。
そうされるとハツキも口を開き、テレーズの舌に自分の舌を絡めて応えた。
言葉もなく交わすキス一つで、頭の奥まで痺れるような快感が広がる。
夜明け前の暗い部屋の中、温かいベッドの中で、互いの息づかいとキスを交わす音しか聞こえない。
ようやく唇を離されても痺れは止まなかった。
頬が熱い。
しかし、快楽に感覚が麻痺する中でも醒めきった己がいて、自分は今、どうしようもなく蕩けきった表情をしているのだろうと冷静に判断していた。
そんなこちらの顔を覗き込み、ハツキの顎に残る互いの唾液が溢れこぼれた跡を拭いながらテレーズが笑う。
窓から庭園灯の明かりが部屋の中に漏れ入り、天井に淡く窓枠の影が映っているが、南の出窓から見える空は未だ暗い。
「まだ朝早いのに」
テレーズの言葉に、乖離する意識を引き戻しながら答えた。
「ごめん。なんだか目が覚めてしまって」
これだけでは心配をさせてしまうので、小さく笑いながら続ける。「でも、ちゃんと眠られたよ。夢も見ていない」
「そうだな」
優しく相槌を打って、テレーズはハツキの頭を引き寄せ胸元に抱き締めた。
「でもどうする? まだ起きる必要はないだろう?」
彼を起こしてしまったのは自分だが、テレーズは決して責めてきたりはしない。
こんな些細なことでも甘やかされているのは重々承知している。
彼にこうやって甘やかされ許される心地よさは、麻薬のように自分を侵していく。
それが怖い。
ハツキはテレーズに気づかれないよう小さく溜息をつき、そして彼の逞しい胸板に頬ずりをした。
「うん。まだ起きる気はないけれど、眠気もないから二度寝って気分でもないんだよね。布団の中が温かくて気持ちいいし、こうしていたいな」
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