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カザハヤの屋敷の庭にある、天之大御神を奉る小さな社の管理は、もともとはサネユキが行っていたのだが、今年の四月に進学のためにハツキが故郷のベーヌから王都に出てきてからは、その役目はハツキのものとなっていた。
大学の授業がない週末の今日は、年末の煤払いをする予定だった。
「朝食の後、すぐに始めるつもり」
「ああ、俺も手伝うよ。そしたら午前中だけで充分終わるだろう? 午後から出かけよう」
テレーズの提案に、ハツキは肩越しに彼を振り返った。
彼が一緒に手伝ってくれるのはもちろん嬉しい。そしてもう一つの提案には心が躍った。
まだ、ただの友達同士だった頃から、彼は王都の様々な所を案内してくれた。
彼と一緒に行く所は、どこでもハツキにとって新鮮で楽しい場所だった。
「今日はどこに連れて行ってくれるの?」
目を輝かせたハツキにテレーズも嬉しそうに微笑する。
「三区のサン=リニオン大聖堂。礼拝には何度も行っているけどさ、今週から来月のユーウィス大祭の飾り付けが始まるんだ。見に行こう」
ルクウンジュ国では、新年と一月十日の国教ユーウィス教の大祭が盛大に祝われる。
同じルクウンジュの国内でも、ハツキの出身地であるベーヌでは新年の祭に重きが置かれているが、ユーウィス教の総本山であるルクウンジュ北部、霊峰バランスの麓にある聖都サン=バランスや、王都大聖堂ではユーウィス大祭が大々的に執り行われる。
その大祭のための、大聖堂を彩る壮麗な装飾が十二月の第一週の週末からされるのだった。
「おまえ、ベーヌではユーウィス大祭に参加することなんか出来なかったんだろう?」
「うん。聖堂の飾りも見たことなくて、姉達に話してもらっていたばかり。サン=リニオン大聖堂の飾りについてはユキ兄から聞かせてもらっていたよ。立派な飾りなんだってね」
「ああ。毎年趣向も凝らされていてすごいぞ。大聖堂を詣った後は四区の中央市場に行こう。こちらも年末の売り出しで大賑わいだ」
テレーズの計画に楽しくなって、ハツキはくすくすと笑った。
人混みは苦手で、中央市場も一人では到底近づくことは出来ない。けれどテレーズと一緒ならば話は別だ。
彼となら人混みでも平気で歩けるし、活気のある市場の空気を思う存分楽しむことが出来る。
「中央市場に行くのだったら、マルゴおばさんの揚げペリメニも食べに行かなきゃ」
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