「薺(なずな)と蘿蔔(すずしろ)」

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「・・・それで、薺さん。大変お疲れのところ申し訳ないですけれど・・・ちょっとご相談したいことがありましてね・・・」  そう話す恵太朗の母親の目には何か氷のような冷たさが宿っていた。 ******  「ポチャン」  再び、池の水面に鯉が顔を出し、その波紋が広がっていった。 「それから・・・3人で3時間程、話し合いましたが、結論を言うと私と恵太朗さんは一か月後に別れることになりました・・・彼は昇り調子の古典芸能の役者で、子供は男の子以外いらなかったんです・・・ましてや、白子(アルビノ)の女の子なんて・・・そして、双子の姉と弟は赤の他人として離れ離れになりました・・・元夫(もとおっと)は売れっ子だったので養育費は結局、娘が20歳になるまで出してもらいました・・・でも、それだけです・・・」  (なずな)はそこまで言うと、うなだれたように頭を傾けたが、すぐに顔を上げ、挑むような眼で秀人(しゅうと)を見つめた。 「・・・そうだったんですか・・・」  薺の眼の光に、秀人はそう答えるのがやっとであった。 「・・・そして、まだ名前がついていなかったあの娘(あのこ)に、私は名前をつけました・・・天使のように白くて可愛い娘・・・蘿蔔(すずしろ)の花言葉『潔白』のような娘・・・あなたの名前は蘿蔔(すずしろ)よ!・・・私の名前は(なずな)(なずな)の花言葉は『あなたに私のすべてを捧げます』よ・・・私はあなたに私のすべてを捧げて幸せにするからね! 約束するからね!」  薺はそう言い終えると、また静かに庭の池に顔を向けた。  そして、そんな薺の顔を秀人はずっと見つめるしかなかった───
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