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「おはようございまーすぅ・・・入っても大丈夫ですか?」
病室の入り口のカーテンを少しのけるような感じで一人の男が姿を現した。
「あ、大丈夫ですよ!旦那さん」とナース
「恵太朗さん」
薺は少し笑顔で声を掛けた。
「やあ、薺、どうだい体の方は?」
「ええ、昨日の夜まではだいぶ強い陣痛があったけど・・・それからは無くて、朝まで良く眠れたわ」
「そうか・・・それは良かった!」
恵太朗はほっとしたように言ったが、そこに別の言葉を繋いでいった。
「・・・実は薺・・・今日、午後に急に稽古のリハーサルが入って・・・志津岡に行かないといけなくなってさ」
「え?・・・」
薺は笑顔だが、ちょっと茫然としたような顔つきになった。
「一応、予定では20時にはまた来れると思うんで・・・生まれるまで・・・体を大事にしてくれよ。薺」
恵太朗はそう言うといつものナースに手土産を手渡した。
「いつもお世話になってます! これ、皆さんで食べてください」
「まぁ! ありがとうございます! 栄太良ですか!」
ナースは屈託なく笑った。
「それじゃ! 薺!また夜来るから!」手を振って病室を出ていく恵太朗を薺はちょっと虚ろな笑顔で手を振って見送った。
「いってらっしゃい」
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