「薺(なずな)と蘿蔔(すずしろ)」

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「・・・それから30分もしないうちに急に強い陣痛が来たんです・・・看護婦さんは『旦那さんを呼びますか?』と聞いたけれど、彼の仕事が大事だということは私も分かっていたので、『いいえ、大事な仕事を放り投げるようなことを夫にさせたくないので』と答えて結局呼ばずにおきました・・・なので、出産につきそってくれたのは私の母親だけでした・・・」 「ポチャン」  庭にある円い池の水面に鯉が顔を出し、ゆるやかな波紋が広がっていった。  薺はそれをじっと見ていたが、やがて話を続けていった。 「・・・そして、陣痛が周期的にやってくるようになって・・・朝から10時間をかけて、双子の赤ちゃんを無事出産しました・・・」 *** 回想 *** 「薺さん! 可愛い双子の赤ちゃんですよ! お姉さんと弟ですよ!」  一人の助産婦は、へその緒が切り離された状態で女の赤ちゃんを、そしてもう一人の助産婦は、へその緒がついたままの状態で男の赤ちゃんを薺の胸元の毛布の上へと手渡した。 「あぁ」  薺はまだ血まみれの男の子と、だいぶ血がきれいに拭き取られた女の子を抱き寄せて顔をうずめたが─── (この()・・・肌と毛が、やけに白い・・・?) 「薺さん・・・」そのとき主治医の先生が言った。 「女の子の赤ちゃんが白いのは・・・大変元気な可愛い赤ちゃんですよ!・・・これは遺伝子の変異による白子(アルビノ)ですね・・・男の子の方は通常のようです」 (・・・白子(アルビノ)!・・・そうなんだ・・・でも、とっても可愛いわ! 二人とも!)  薺は主治医の言葉に深くうなづいて、また二人の赤ちゃんに顔をうずめた。 ******
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