幸福を感じて

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 出掛けるには少し遅めの十一時。 「嘘付き。軽めにするって言ってたのに……」  俺は、助手席で痛む腰を摩りながら、不満げに流れていく景色を眺めていた。 「お前もノリノリだっただろ」 「そっ、それは違うっ!」 「違わないだろ。それに、あんな煽るような事を言うからだ」 「俺はただ、尋政をいろんな所に連れていくって言っただけだから!」 「あれは煽り文句だ」 「違うからっ」  俺の意見に尋政はハンドルを動かしながら、からかうように反論した。  車を運転する尋政の隣に座るのは、新鮮さがあった。葉街さんが運転して、一緒に後部座席に座る事はあったけど。この形はデートっぽいかもしれない。  デートの移動中に、こういう喧嘩をするのもアリなんだろうか。漠然と、リア充みたいだと思った。  後でアイデアとしてメモしておこう。 「あれだな……見えてきたぞ」  まだ少しだけ遠いが、正面にドリームランド象徴の観覧車が見えてきた。 「おー! 久しぶりに見るとテンション上がるかも」  目的地へ近付くにつれて、子供のようなワクワク感が芽生えていった。来たことのある俺でもこうなら、尋政はもっと楽しみな筈だ。けど、彼の表情からはそんな気持ちが読み取れない。 「尋政……来たかった場所に行けるのに表情硬くないか?」 「そうか? まだ実感が湧かないから、きっとそのせいだ。仕事の時、ただ通り過ぎていく場所だからな」 「入ってみればきっと楽しいよ」 「お前も一緒だからな」  っ……これはずるい。  不意打ちでそんな事を言われれば、気持ちも弾む。これは、彼に楽しんで貰えるように案内役を張り切るしかない。そう大袈裟に決意して、頭の中で考えていた段取りを俺は整理し始めた。  ─ ─ ─ ────  指定された駐車場に車を停めた後、チケットを買って俺達は入場ゲートをくぐった。  マスコットキャラクターの銅像や、造形が美しい噴水が俺達を迎え入れてくれた。
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