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「兄さんとの事は、本当に黙っていた方がいいかも」 「それって……尋政の親父さんに反対されるから……とか?」 「それだけじゃないかな……」  彼女はうつ向きがちに、俺に対する心配を口にしてくれた。 「本家で音富くんがこの家に住む事を、崇稀くんが報告したって事は聞いたよね? 重要な事柄は必ず他の従者一族にも知らせる事になってるんだけど、音富くんが兄さんと住む事に反対意見も出てる」 「えっ……」 「十一年前に次期当主に対して失礼な行いをした人間を一緒に住まわせるなんて考えられない、とか。漫画家を辞めさせて羽隅の会社に入れるべきだ、とか。真紀央くんを呼び戻すべき、なんて……勝手な事ばかり言って」  そういう話は二人から一切聞かされていない。寝耳に水だった。 「誰にだって思春期も反抗期もあるんだから、仕方がない事なのにね」  彼女は俺の事を想って感情移入してくれたのか、表情から苛立ちが見えた。  周りの偉い大人達がそんな認識だったなんて、今思えば恐怖だ。尋政は許してくれたけど、ちょっと軽く見過ぎていた。 「今の所は何も無いけど……これから先、他の従者一族と顔を合わせる機会もあると思う。中には性格が悪い人達も居るから、私や兄さんが一緒でも、本家に顔を出す時は注意して。今日はそれを教えておきたくて」 「そ、そっか……」  そうなったら遠慮したいんだけど、無理か…… 「お、教えてくれてありがとう」 「久しぶりに本家に来た時に、君がまた嫌な思いして来なくなったら嫌だから。私、小歌家以外の従者一族ほとんど苦手だし」 「え……」 「こういう言い方は良くないけど……機嫌を取られたりするのは、魂胆があるからかなって。私、いつかは従者一族の誰かと政略結婚させられる身だから……尚更感じ取れちゃって」  笑ってはいるけど、本当に苦手そうなのが伝わってきた。
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