フクロウが呼んだのは

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 顔を洗うと、黒のパンツと白のパーカーに着替えた。気晴らしで外に出る為だ。それから、本棚の上に置いていた三つ折りの財布を手に取った。  さっきの夢のせいか、財布に付けた根付けに目がいく。あの事件の数ヵ月後、まるでお詫びの品みたいに向こうから送られてきたっけ。  不苦労・福来ろうという意味合いで、尋政の家の象徴とされる縁起物のフクロウが木彫りで彫られている。  尋政の家の風習にまつわる貴重な物だ。知り合いみんなが貰えるわけじゃない。両親や兄貴も持っていたけどいつまでも俺だけ貰えず、ねだってもはぐらかされていた。  当時はそれが手に入ったのに、嬉しさが全然湧かなかった。ただ、尋政を感じられる思い出の品として未練がましくずっと持ち続けているだけ。  縁起物のおかげか漫画家にもなれたけど、今は人気低迷で連載打ち切り。次のアイデアも浮かばない状態だもんな。いつか有名になって、立派な姿を見せて謝りたいと思っていたのにこのザマだ。  自分の現状に溜め息を吐き、財布を尻ポケットに仕舞うと俺はフクロウをぶら下げて玄関のドアノブに手を掛けた。  ─ ─ ─ ────  資料探しと刺激を求めて、辿り着いたのは大型書店。  漫画コーナーに赴けば、美麗な絵が描かれたコミックが目立つ位置に飾られていた。その中のひとつは人気の少女漫画だ。相手役がとても魅力的で目を奪われる。  俺もこのくらい綺麗に描けたらな。  昔は画力向上の為に、公園や駅前で人物画を描いていたっけな。イケメンをターゲットにこっそりスケッチして。モデルの雰囲気とイメージから着想を得て漫画のアイデアを練って、ストーリーを妄想するのが楽しかった。  最近は忙しくてやっていなかったから、初心に返るつもりで試しても良いかもしれないな。  創作意欲を掻き立てられそうなモデルを、俺は然り気無く目線で探した。かっこいい人はわりと居るが、描きたいと心から強く思える逸材は今の所見当たらないな。  ここに居る人は諦めて、芸能人やモデルが載る雑誌を見てみるかと、方向転換した。    振り向いた拍子に根付けの紐が切れ、フクロウが落ちるなんて思いもせずに。 「……小ブタ?」 「え……?」
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