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「年甲斐もなく、お前との初デートを楽しみにしていたのに、この様だ。兎月の事も、お前に会わせて大丈夫かと思ったが、失敗した。あいつがお前と話しているだけで、どうも気に食わない」
拗ねた子供みたいに、彼はぶつぶつと不満を漏らしていた。
抱き締められた事に狼狽えながらも、兎月さんの名前が出た事に、俺は疑問を感じた。
「何で会わせたのが失敗? 俺、兎月さんには何も意地悪されてないし……これから仲良く出来そうなのに」
「それがダメなんだよ。少女漫画家なら、恋人が他の男と仲良くしてる時の心情くらい理解しろ」
俺は自分の事には鈍感過ぎて、すぐには尋政の気持ちを理解出来なかった。が、尋政と葉街さんの関係を妄想した時の気持ちが頭に甦った。
自分で口に出すのも、自意識過剰のようで恥ずかしい。彼の肩に唇を宛て、もごもごと聞こえずらく喋った。
「それって……ヤキモチ?」
「どう見たって、あいつはお前を気に入ってるだろ」
「いや、見えないけど……」
兎月さんが丸くなった以外の変化が、俺にはわからなかった。俺に対して態度も口調も強めなのは、昔と変わりない。
「本当に鈍感だな。お前は」
「尋政が考え過ぎだと思うけど……」
尋政の腕の中に納まりながら、彼を見上げた。
「とにかく……そんな顔してたら美味しい物も美味しくないし、みんなも気使うから。今日はこれで良いと思う。次のデート、今度は尋政の仕事が休みで、疲れてない時に予定立てれば良いだろ?」
「じゃあ、明日」
「明日……? 明日は会社休みだからゆっくりするって……」
「食事が終わったら、今日の夜と明日の朝に掛けてお前を抱き潰す予定だったんだ」
「なっ!?」
「だから明日、本当ならお前は動けない予定だった。けど、デート行くなら控えめにする」
そんな思惑があったとは!
俺としては、計画通りにいかなくて良かったかもしれない。
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