フクロウが呼んだのは

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 車が停車したのは数分後。  俺の小指は目的地に着くと同時に、尋政の手から解放された。  その場所は、わりと高収入者向けの高級住宅街だ。二階建ての青い屋根で灰色の外壁。どことなくスタイリッシュな印象の一軒家だった。 「崇稀、先に行っているぞ。小ブタ降りろ。案内してやる」 「あ、うっ、うん……」  車中の事は何事もなかったように接する尋政。その後ろを、青い顔してドギマギしながら恐る恐る付いていった。  俺何されんだろ……。やっぱり小指……  葉街さんに助けを求めたくて振り返っても、彼は車庫入れ中で話が出来る状態じゃなかった。  ─ ─ ─ ────  広いリビングのソファで待たされ、俺が今見ているのはキッチンで何かを探している尋政。  探してるのはやっぱり刃物……  緊張して待っていると、尋政は何かを皿に乗せて戻ってきた。  「あった。客人なんて滅多に来ないから、こんなものは普段用意してないが。お前を呼ぶ予定があったから崇稀に用意させていた」 「……へ?」  目の前のテーブルに出されたのは、丸々一本皿に乗せられたカステラ。 「食え。うちで作っているものだから美味いぞ。お前は好きだっただろ、カステラ」 「ま、丸々一本って……。しかもこれ贈答用で五千円くらいするやつ! もったいないって!」  贈答用の表面には羽隅家象徴のフクロウシルエットの焼き印が入っている。黄色いスポンジ部分はきめ細かく、しっとりしていそうだ。  羽隅家は元々カステラが売りの和菓子屋だったんだから、不味い筈ない!  今じゃオウル製菓っていう人気菓子メーカーだ。ポテトチップとかチョコ菓子とか有名商品をいろいろと生み出している。中でもカステラは多少高価でも美味で、求める客が多い人気商品。 「遠慮するな。よく茶会や集まりで食べていただろ。懐かしいんじゃないか?」  尋政が目を細めて優しげに紡ぐ言葉が、昔の記憶を思い出させた。  幼少の頃、両親や兄貴と出席した茶会の席でカステラが茶菓子としてよく出されていた。  そういう席だと周囲に大人がたくさん居て落ち着いて食べれなくて、とにかく我慢。正式な茶会が終わった後、尋政の部屋でこっそり二人で食べたっけな。俺のお茶会の思い出はほぼそれだ。
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