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睨み合う二人を見比べながら高級肉を味わっていると、壁掛け時計を見た葵璃絵ちゃんが声を上げた。
「あら、もう時間ね。まだ音富くんといっぱい話したかったけど、また今度ね。兎月くん、帰りましょうか」
「え……」
「嫌そうな声を出さない。ほら、兄さんに怒られない内に帰りましょう。音富くんとはまた今度食事すれば良いんだから。ご馳走さまでした!」
「っ……ご馳走さまでした」
まだ肉が食べ足りなかったのか、不服そうな表情で兎月さんは立ち上がった。
「尋政様、私も失礼します。お二人を送って来ますね」
ずっと焼き役だった葉街さんはトングを置くと、礼儀正しく俺達にお辞儀した。
「気を付けてな」
「三人共ありがとうございました、おやすみなさい」
「音富くんまたね! おやすみなさい!」
ぶんぶんと手を振りながら、兎月さんを引っ張って帰っていった葵璃絵ちゃん。三人を見送り扉が閉め切られると 、個室は一気に静まり返った。
「やっと二人っきりだな、今日はずっと騒がしかった」
「いろいろあったけど、俺は楽しかったよ。兎月さんともあーやって話出来たし」
「兎月の話はもういいだろ……」
声の調子で、尋政のイライラ度が手に取るようにわかる。
残りの肉を焼きながら、彼が喜びそうな話題にすかさず方向転換。
「えっと……明日、出掛けるんだろ? 尋政どこか行きたい場所ある?」
「ドリームランド」
「え!」
ドリームランドとは有名なキャラクター達が居る、おとぎ話や映画がモチーフのテーマパークだ。
尋政の口から即答でその場所の名前が上がるなんて、思いもしなかった。
「何でそんなに驚く」
「いや、尋政の考えるデートってもっと大人っぽい感じの場所かなって想像してた」
「期待に添えなくて悪いが、お前とのデートはそんな場所より、ドリームランドみたいな場所の方が楽しめそうだと思ったんだ」
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