幸福を感じて

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 海外の庭園を思わせる風景が、どんどん俺達を現実から引き離していく。  中に入っていく人達は家族連れや恋人達、よく見れば男だけのグループもある。俺達はそんなに目立たないみたいだ。  隣を歩く尋政は不思議な世界に迷い込んだように、キョロキョロと周りを見回していた。 「綺麗な場所だろ?ここ、撮影スポットなんだよ」 「そうか……」  彼はカメラや携帯を片手に写真を撮る人達を眺めていたと思うと、前を歩く俺を引っ張った。すぐ間近に、尋政の顔があって…… 「えっ、なっ!」  パシャリ。  こんな人が多い所で何をする気だと思っていたら、尋政のスマホからシャッター音が聴こえた。彼のスマホには、ブサイクな顔をした俺と、整った顔立ちの尋政が映し出された。ちゃんと、背景に噴水も映っている。 「な、なんだ写真か」 「撮影スポットって言ったのは音富だろ。……撮影じゃなくて、何だと思ったんだ?」 「な、何でもない!」 「そうか?」  意地悪げな笑みの彼は、ニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んでいた。恥ずかしい勘違いをなかった事にしようと、俺は撮られたばかりの写真を不満げに指差した。 「と、というかこの顔はだめだ! 変な顔だし、これ消して!」 「嫌だ。新しいのを撮っても良いが、これは消さないぞ。お前の期待している表情だから」 「そ、そんな顔してないしっ!」 「どうだか」  何もかもお見通し。唇で弧を描きながら、尋政はそんな風に俺を見下ろしていた。子供っぽく怒る俺の肩に手を回し、彼はまたスマホを構えた。 「そんな膨れっ面してたら、また撮り直しになるぞ。笑え。記念写真なんだから」 「きっ、記念写真?」 「昨日があんな形になったんだから、今日が正式な初デートって事になるだろ?」 「そ、それは……そっか」  からかわれてムキになっていたが、小さな怒りが引っ込んだ。   「じゃあ……ちゃんと笑うけど、変な事言わないでくれよ?」 「あぁ」
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