幸福を感じて

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「崇稀は良いが、達って何だ」 「え、葵璃絵ちゃんと兎月さんにも買おうかなって……」 「あの二人にはいらない」 「でも、昨日一緒に焼肉食べただろ?」 「焼肉の代金を払ったのは俺だ。あの二人はただ食って帰っただけだ」  昨日の事をやけに根に持っているらしい。二人の名前を出すだけで、彼は不愉快そうだ。俺はわざとらしく口を尖らせた。 「俺は楽しかったのに」 「……その言葉は、二人きりの時に引き出したい」 「今も楽しいよ。こうやって尋政とデート出来るなんて、俺だって思わなかったんだから」  目を見てそう伝えれば尋政は一瞬目を見開いたが、今度は柔らかな笑みを俺に向けてくれた。 「さすがに今日は邪魔も入らないだろうからな。閉園時間ギリギリまで楽しむか」 「そうだね」  お土産は最後に買うとして、他に何かないかと、俺は辺りを見回した。キラリとした電飾が、夕刻に近付いていく茜色の空で目立った。  恋人と観覧車。ありがちだけど、空の上での密室空間は恋人達の気分を盛り上げる最大のイベントかもしれない。漫画でも定番のシチュエーション。  さっきまで尋政の要求に付き合っていたんだから、今度は俺の願いを聞いてもらおう。  ─ ─ ─ ────  乗り込むと、少しずつ昇っていくゴンドラ。夕焼けが地上を橙色に染めていく景色も、素晴らしいものだった。 「綺麗だな」  窓の外を眺める尋政の感動した様子に、まるで自分が褒められたように俺ははしゃいだ笑顔を浮かべた。 「そうだろ? 俺も昔感動したんだ、この景色。だからドリームランド来たら絶対に観覧車乗るって決めてて。じゃないと来た気がしないから」 「俺のさっきのジェットコースターみたいなものか。また来た時は、同じように乗るか」 「ドリームランド、本当に気に入ったんだね」  横に座る尋政を見ると、尋政の顔も夕陽で照らされて、輝いていた。
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