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が、初恋相手との淡い思い出と同時に、あの事件もフラッシュバックした。ハッとして首を横にブンブン動かし、俺はそれを必死に振り払った。
あれを今思い出すな! トラウマなんだし。
「どうかしたか?」
「あっ、えっと……こ、ここの家って葉街さんと一緒に住んでんの?」
事件を思い出した事で混乱して、カステラとは関係ない話を振ってしまった。こんな広い家だから気になってはいたけど。
俺の質問に尋政は何故か嬉しそうに、ニヤリと笑った。俺の向かい側のソファにドカッと腰を下ろし、肘掛けに頬杖を付いて俺の顔を窺っている。
「何だ、気になるのか?」
「え、それはまぁ……こんな広い家だし、一人で住むには部屋余るだろうし……」
「何だ、そういうことか……」
俺の返答に、今度は不満げに眉を下げた。
「ここは俺一人だ。崇稀はたまに泊まりにも来るが、あいつは近くのマンションに住んでいる。ここは見た中で一番良い物件で、将来的な事も考えて買ったんだ」
「将来的……あー……」
納得がいった。
将来の奥さんと子供の為にって事か。世継ぎ問題も想定済みなのは当然だな。だから初恋があんな形にならなくても、最初から無理だったんだよな。
自分にそう言い聞かせ、今度は意図的に話を逸らそうとした。
「そうだ……俺に話があるって言ってたけど、何の話?」
「それは……」
ちょうど車庫入れを終えた葉街さんがリビングの扉を開けて入ってきた。テーブルに置いていたカステラを見て呆れている。
「社長……お客様にお出しする時は食べやすく切らなきゃだめです」
「小ブタの好物なんだから別に構わないだろ。こいつなら丸々一本食える」
さすがに胸焼けすると思う。
葉街さんの言葉が正論だが、尋政は大人げなくむすっとしていた。その様子に彼はちらりと午後四時を示す時計を見て、テーブルからカステラを撤収させた。
「今の時間にこんなに食べたら夕食が食べられません。それに、小ブタ様がここでお住まいになられるなら、これからいつでも食べさせてあげられますから。小分けして保存しておきましょう」
「それもそうだな」
「…………ん?」
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