幸福を感じて

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「あぁ。来れて良かった。けど、お前とじゃないと、ここまで楽しくはなかっただろうが」  真っ直ぐ彼を見つめていたかったのに、俺は彼から顔を背けてしまった。写真を撮られた時と同じように、彼に対して期待した表情を向けてしまいそうだから。  赤い顔が夕陽でわからなくなるように、俺も窓の外を眺めた。 「そ、それは言い過ぎじゃない? きっと、尋政は初めてだったからだよ」 「まぁ……もし他の従者に頼めば連れてきてもらえたとは思うが、やっぱりお前と他の奴じゃ違うだろ。お前と一緒じゃなかったら、何回もジェットコースターにも乗らなかったと思うぞ」 「っ……!」  後ろから、彼の両腕に捕らえられて頬同士が触れ合う近さ。心臓の鼓動が、彼にも伝わりそうなくらい騒がしかった。 「ひ、尋政……外から見られる」 「ちょうど天辺だ。見えないし、誰にも見せない」  窓辺に付けていた俺の手に、彼の手が重なったのが合図みたいだった。その言葉を鵜呑みにして尋政の方を向けば、キスが降ってきた。 「ん……」  温かい感触が唇に残るキスだった。それだけで、胸いっぱいに幸福感が広がった。観覧車が地上に着かなければいいと、密かに思った。  少し離れて見詰め合えば、お互いが微笑み合う。漫画の見せゴマのような、ロマンチックな時間がその場には流れていた。  観覧車が地上に着くと、俺は駆け込むように照れ隠しでお土産屋に入った。二人で葉街さんのお土産を選ぶが、思えば彼の好みを俺は全然知らなかった。 「葉街さんとは最近から一緒に居るけど、そういえば食べ物の好みとか細かい事はわからないな。尋政が作ってくれるご飯が好きだとは聞いたけど」 「あいつは野菜なら茄子が好きだが。全体的には和食が好きだ」 「茄子か。和食が好きなら煎餅とか饅頭の方が良いか。……兎月さんにも同じの買おう」 「おい」
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