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「たくっ、そういう事は俺にも教えろよ。前以て知ってたら俺だって裏で手を回せたかもしれないのに」
「え?」
「説得でどうなる相手じゃないけど、何かしら動いてれば何か変わったかもしれないだろ」
兎月さんの口振りだと、まるで俺の力になってくれるように聞こえる。俺がぽかんとしていると、彼は俺を睨んだ。
「何、別に変な事は言ってないだろ」
「あ、その……尋政の結婚とか跡継ぎの事とか、従者みんなが望んでいる事だと思ったので……兎月さんが俺に優しいのは意外で」
「はぁ!? そんなのあたりま……」
兎月さんが詰め寄ってくると思いびくびくしたが、葉街さんの視線に気付いた彼はばつが悪そうに口をつぐんだ。俺から顔を逸らし、一呼吸置いた兎月さんはぶっきらぼうに話し出した。
「俺は、やり方が気に入らないだけだ。本人の意思を無視するのは、家の為とはいえ理不尽だろ」
「ありがとうございます」
お礼を言う時、胸がいっぱいで言葉が詰まりそうになった。
「まぁ、もし捨てられたら……俺が拾ってやるし」
「へ?」
彼の言葉に感動していて、次の言葉が俺の耳に入ってこなかった。しばらく黙っていた葉街さんが俺の肩に手を置き、補足説明してくれた。
「友人として力になると言ったんですよ。こう見えて、兎月さんは優しいですから」
「嬉しいです」
何となく、友人としてという言葉が強調されたように思えたが、その言葉にも俺は感動した。
「お前っ!」
「葉街さん、失礼します」
兎月さんが葉街さんに何か言い掛けた瞬間、従者と思われる人が葉街さんに何かを耳打ちした。しばらくすると、従者は頭を下げ戻っていた。
悪い話だったようで、報告を聞いた葉街さんの表情は厳しげだ。
「小ブタ様、非常に残念ですが……見合いの日程が決まりました。それと、貴方と尋政様が恋人同士だと当主に知られたようです。見合いの日程まで、尋政様と貴方の接触が禁じられ、私が貴方を監視するように命じられました」
「え」
悪い話は、それだけじゃ終わらなかった。葉街さんも、拳を強く握り締めて静かに言葉を続けた。
「更に、見合いには立会人が必要だと。私と兎月さん、そして……小ブタ様も見合いに同行するように言われました」
奈落の底に、突き落とされた気分になった。
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