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あの後、尋政の親父さんと話を出来ないか聞いたものの、葉街さん経由で見合いの話を聞けただけ。尋政とも会えず、門の前で別れた時が彼を見た最後だ。
葵璃絵ちゃんと尋政へのお土産は、葉街さんに頼んで尋政に渡してもらった。
俺は葉街さんに車で送ってもらい、尋政の居ない家に帰ってきた。兎月さんも俺を気に掛けてくれて、付いてきてくれた。
葉街さんはお茶を淹れ、テーブルに湯呑みを置きながら俺の顔を覗いた。
「……大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫」
「全然大丈夫そうには見えないけどな」
俺の隣に座る兎月さんがそう言うのも無理ない。俺の声は深く沈み、頭は下を向きがちだった。作り笑いも出来ず、嫌な事ばかりが頭に浮かぶ。
『見合い相手と結婚する事になった。だから、出て行ってくれないか。けど、風習は守らないといけないから……週一でここに顔を出してくれ』
想像した尋政の声は、とても冷たかった。こういう時、自分の想像力の豊かさを恨む。無駄に心にダメージを負った気がする。
頭を抱えていると、葉街さんは俺の向かい側に座った。
「元気を出してください。見合いも今すぐというわけではありません。一ヶ月程先ですから」
「そうですね……」
「けど、何でそんなに間空けるんだろうな。見合いさせたいなら、早く済ませた方が当主としても都合良いだろ」
頬杖をつきながら、兎月さんは見えない相手を睨んでいる。
「それは……」
俺に聞かせたくない事なのかもしれない。言い淀む葉街さんの背中を押したのは、兎月さんだった。
「こいつはしばらくこうなんだから、今の内にわかっている事は全部言っても良いだろ。小出しにしないで全部言えよ」
「……宜しいですか、小ブタ様」
俺もぼんやりしながらも、ダメージを負うのは今日だけで沢山だとも思った。
「お願いします」
「わかりました」
彼の顔をうつ向きがちに見れば、葉街さんは力強く頷いてくれた。
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