後編

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『もうちょっとだから待てって、言ってただろぉ……っ』 『通話終わるまでちゃんと待ってたじゃないですか』 『だからってぇっ、い、いきなり突っ込むなんて、あ、ん、んん!』 『仕事モードの理人さんがかっこよすぎるのが悪い』 『ま、また俺のせいにっ……あっ、あっ、あぁんっ!』  ちょ、ちょっと待った。  これって、まさか。  う、嘘だろ……?  嘘だろ嘘だろ嘘だろ!? 『理人さん、聞こえる?』 『ふ、うぅん……ッ』 『ここ、もういっぱいだし、グッチョグチョ』 『い、言うなばかっ……あ、あ、んんっ! やだっ、奥、奥はやだぁ……っ』 『理人さんの中、なにでいっぱいになってるか分かる?』 『あ、あっ! さ、佐藤くんのぉ、おっきくてかたいちん……』  うわあああぁぁぁ!  室長!  神崎室長オォッ!  お願いだから気づいてください!  たぶん、肘です!  肘で通話ボタン押しちゃってます!  だから丸見えです!  全部聞こえちゃってますううぅぅーッ!  ……って、待てよ?  俺が接続を切ればいいんじゃないか!  そしたら―― 『あっあっ、そ、そこ、気持ちいい……っ』 「……」  タブレットまであとほんの数ミリのところで、俺の指は動かなくなった。  室長のこんな声、初めて聞いた……いや、当たり前だから。  それにこんな表情も、初めて見た……いやいや、それも当たり前だから!  ひとりでボケとツッコミをこなしながら、それでも釘付けになってしまった視線を引き剥がすことができない。  だって……だって、こんなかわいい室長が見られるなんて―― 『理人さん……』 「……」 『理人さん……理人さん……』  熱い吐息の合間に、掠れた低い声が、何度も何度も室長の名前を紡ぎ出す。  その声の持ち主は、あの時の男だ。  神崎室長にキスして、抱きしめていた長身の男。 『よ、呼ぶなっ……もう……!』 『イッちゃいそう?』 『ば、ばかっ……あ、だめ、イくっ、イっちゃ――』 「……」  ポンッ。  無理やり画面に押し付けた指先が、小刻みに震えた。  画面が真っ暗に戻り、部屋の中が静寂に包まれる。  タブレットに反射した自分が鼻血を出したりしていなくて、心の底から安堵した。  記録を見れば、通話時間はたったの二十五秒。  一分どころか、三十秒にも満たない。  でももしかしたら、俺のちっぽけな人生の中で一番濃厚な二十五秒だったかもしれない。 「在宅明け、どんな顔して会ったらいいんだ……!」  いやだってこんなの、誰にも相談できないじゃないか。  ――だから遠慮なんてせずに、どんなことでも相談してほしい。  あ、さっき室長がそう言ってくれてた……って、違う違う違う違う! 「ああもう、なんで世界はこんなにも理不尽なんだ……!」  誰にも届くことのない恨み言を叫びながら、悶々とする頭と、ドクドクと脈打つ心臓と、ギチギチと窮屈な股間を持て余したまま、俺は仰向けにぶっ倒れたのだった。  fin
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