雪の四月朔日

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 視線の先ではらはらと舞う雪の花。それに混じる桜の花びら。  雪と桜。そんな幻想的な光景を引き裂くかのように張り巡らされた黄色のテープ。  紺色をした人だかり。県警の刑事や制服警官が囲む先に、茶色のローファーが転がっているのが見えた。  まだ、少女の遺体があるのだろう。 「大山(おおやま)警部、天神八雲氏をお連れしました」  鳴神が上司に声をかける。  定年が近づいていると思われる年の頃。  八雲の中では柔和で人好きのするおじさんのイメージだが、事件現場と言うこともありその表情は険しい。 「おう、姫さん。悪いな、朝早くから」  大山は軽く手を上げ、八雲に挨拶をした。  それに対し、頭を下げて(こた)える。 「被害者の物と思われる足跡は片道だけ残っていました」  転がっている茶色のローファーは片方だけだ。  もう片方は足と一緒に犯人に持ち出されたのだろうか。 「遺体を見せていただいても?」  間もなく運び出される少女の遺体。  その前に、彼女を一目見ておこうと八雲が口を開く。  大山は無言のまま手招きをした。  少女の足跡――そして第一発見者の足跡だろうか、往復の足跡がテープで囲まれている。  少女の体を覆う青いビニールシートを外すと、制服姿の死体が姿を現した。  祈るように組まれた腕。その両手首から先がない。  スカートが長いためか、切断された両膝は隠れている。  胴体だけのマネキンが倒れているような光景だった。  よく見ると首の切断面の辺りに縄のような浅黒い痕が残っている。  検死官もそれを確認したのだろう。 「……なるほど」  ぽつりと呟く八雲。何かに気付いたらしい。  彼女の視線は遺体の袖口に注がれていた。
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