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横から伸びてきた手に抱き止められたため、雪に埋もれなかったものの、八雲の顔は険しかった。
「何であなたがここに」
彼女は友人である有栖川透を、まるで害虫でも見るような目で睨み付ける。
眼鏡の奥で困ったように目を瞬かせる透と八雲の間に鳴神が入った。
「こちらでお呼びしました。有栖川先生にも現場を見ていただけたら、と思いまして」
「必要ないと思いますけど……別に透が司法解剖に携わるわけでもないですし」
透は大学病院の救急科の医師で、主に救急搬送された患者の初期治療にあたっている。
そんな彼が呼ばれた理由は、八雲のお目付け役だった。
遺体に近づいたときに見える、強い感情の流れとフラッシュバックの様な映像。
それを見た八雲が倒れてしまうことがあるため、彼女の友人であり医師でもある透を一緒に呼んだようだ。
「何か、視たのか?」
倒れかかった原因となるフラッシュバック。
その内容を透が尋ねる。
「被害者、学校で同級生からいじめを受けていたのではないかと……リストカットはその為でしょうね」
八雲が呟くように言いながら、視線を上げると遺体の近くに大柄の警察官の姿があった。
体格のいい刑事たちより、更に頭ひとつ大きいその男は目立つ。
「あの方は?」
鳴神を振り返り、視線でその警察官を示す。
「第一発見者です。この、稲荷神社前交番の勤務で、勤務前に足跡を見つけて気になって跡を追ったと」
被害者の足跡から少しはなれたところにあった往復の足跡は彼のものらしい。
足跡の続いている方向、被害者が倒れていた先には池があり、池に落ちていないか確認しに行ったという。
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