雪の四月朔日

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 車の後部座席のドアを開け、八雲は少女に乗るように促した。  少女が座ると、ドアを閉め、反対側のドアから自分も乗り込む。 「改めまして、天神八雲です。本職は研究員ですが、警察の依頼で捜査協力させていただいています」  自分の身分を明かし、相手の警戒心を解こうと試みる。  少女はおずおずと顔を上げて八雲を見た。 「私は警察官ではありませんし、捜査の権限も勿論ないです。ですから、答えたくなければ黙っていていただいて構いません」  些か強引ではあったが、あくまで任意でだ。  八雲は少女が嫌がるのであれば、すぐに解放するつもりでいる。 「あの……さっきの人、刑事さんですよね」  ぽつりと少女が口を開く。  恐らく、鳴神のことを言っていると思った八雲は頷いた。 「……事件に関係するかもしれない話なら、刑事さんにも聞いてもらった方がいいですか?」  蚊の鳴くような小さな声で呟くように言う。  、少女自身にも不確かなことらしく躊躇(ためら)っているようだ。 「あなたが構わないのなら呼びましょう。話を聞いて、事件との関係を判断してもらえばいい。結果的に関係なくても、あなたが少し楽になるならそれでいいと思います」  眉根を寄せて不安そうな少女に八雲はそう声をかけた。  悩みながらも少女が頷いたので、スマートフォンを操作して鳴神を呼ぶ。  後部座席は二人が座っているため、鳴神には助手席に乗って貰った。 「私は谷崎(たにざき)李菜(りな)。桜南高校の二年です。あ……新学期だから三年です」  少女が名乗り、身分を口にする。  桜南高校――亡くなった女生徒の着ていた制服も桜南高校だ。  そしてそれはまだ、(おおやけ)には発表されていない。
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