雪の四月朔日

12/16

17人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
 八雲の直感は正しかったのかもしれない。  鳴神はメモを取りながら黙って少女の話を聞いている。 「桜南高校、ですか」  呟くように口にしたのは八雲だ。  桜南高校は県立高校で、特別有名な進学校ということはない。  どちらかというと、専門学校に進学する生徒が多いくらいだ。 「私の気にしすぎかもしれないんです。でも、昨日の夜から友達……親友と連絡が取れなくて」  気にしすぎかも――と言いながら、李菜には確信があるように見える。  八雲は李菜の話を聞きながら、顎に手を当て考え込んでいた。 「念のため、その子の名前を教えてもらっても」 「いえ。その前に谷崎さん、マフラーを取って貰えませんか?」  黙っている八雲に変わって口を開いた鳴神だが、言い終わる前に八雲が李菜に声をかけた。 「マフラーを取ってください」  二度目のお願いは、命じるような口調で。  八雲の視線を真正面から受け、李菜は気まずそうに視線を逸らした。  きつく巻かれたマフラー。  防寒にしてはおかしい程に、グルグルと厳重に巻かれている。  まるで、首を絞めるように。 「……あなたが、友人を案ずる理由がそのマフラーの下にある。そうでしょう?」  見透かすような八雲の言葉に、李菜の肩が小さく震えた。  断言するような言い方をした八雲だが、実際には賭けだらしい。 「わかりました。マフラー、取ります」  グルグルと首に巻き付けていたマフラーがほどかれる。  マフラーの下、少女の白い喉には浅黒い手形が残っていた。  人の手で首を絞められた――扼頸(やくけい)の痕だ。  くっきりと、残る手の痕。  李菜は何も言えずに(うつむ)くだけ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加