雪の四月朔日

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 直接、谷崎李菜の名前は出していないのだろうが、どうやって聞き出したのだろうか。  そんなことを八雲が考えていると、検査を終えた李菜が戻ってきた。  やや疲れた様子の彼女は、二人に向かって頭を下げる。 「特に身体に異常はないとのことです……」  頭を上げたあと、李菜は小さな声で報告した。  首に残る手形を除いては、と言うことだろう。 「念のため、今日はクリニックで様子見しようと思う。谷崎さん、その人たちとの話が終わったら奥の部屋へ来てね」  検査室から有栖川医師が顔をだし、声をかけてきた。  李菜が頷くのを確認し、次の患者の対応へ向かう。 「さて、では、話の続きをしましょうか」 「天神さんたちが聞きたいのは、この首の痕についてですよね……」  大事(おおごと)になってしまったため、李菜は俯きながら呟くように口にする。  彼女の首に残る扼頸の痕。はっきりと残った手形は誰のものなのか。  悩みながらも李菜は相手の名前を伝えるため、口を開く。 「狩谷(かりや)有香(ゆか)さん……いま、連絡が取れない彼女に、昨日の夜、首を絞められました」  李菜の口から、親友という少女の名前が出る。  それを聞いて鳴神の顔色が変わった。 「理由を聞いても?」  八雲は驚くことなく、聞き返す。 「……わかりません。スマホにメッセージがきて呼ばれたので、行ったら……」  そこからは嗚咽(おえつ)が混ざり、聞き取れない。  しかし、昨夜、李菜が狩谷有香という少女と会っていた事はわかった。  有香がもし被害者だとしたら、最後に会ったのは彼女なのかもしれない。 「辛いことを思い出させてしまいましたね。ご協力ありがとうございます。今日はここでゆっくり休んでください。事件は警察が必ず解決しますから」  八雲の言葉に小さく頷く李菜。  涙を溢す彼女を(なだ)めながら、一緒に病室に向かった。
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