雪の四月朔日

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 李菜が落ち着いたのを確認してから部屋を出る。  あとは有栖川親子に任せるしかない。 「八雲さん」  部屋の外で待機していた鳴神に声をかけられた。  いつも以上に真剣な表情で名前を呼ばれ、重要な話だと身構える八雲。  しかし、その場では話さず場所を移動する。 「先程、谷崎さんから名前の上がった狩谷有香さんのご家族と連絡が取れました。どうやら狩谷さんは昨晩家を出てから戻っておらず、ちょうど家族も警察に連絡をしようとしていたところだったようです」  頭部のない遺体の本人確認はDNA鑑定が行われるだろう。  両親との親子関係が認められれば、被害者は狩谷有香と確定する。 「……谷崎さんの事も、狩谷さんの家族に話すんですか?」  八雲は気になっていることを聞いた。  有香に首を絞められたと言っている李菜。  しかし、有香が亡くなっているなら、その罪をもう問うことはできない。 「それはまだ決めていません。大山警部の判断になるかと思いますが……」  上司の大山には既に報告してあるようだ。  有香の家族との連絡も、恐らく大山を通して行ったのだろう。 「狩谷さんの左手首、切断面付近にリストカットの痕がありました。もしかしたら、彼女は心療内科を通院していたのかもしれません」  もし、メンタルケアを行うクリニック等への通院歴があれば、病院関係者から聞き込みを行うことで何かわかるかもしれない。  有香の苦悩は彼女にしかわからないが、八雲は昔の自分と有香を重ねて見ているようだ。 「狩谷さんの家族には、つくば警察署にお越しいただくことになりました。そちらは大山警部が対応する予定ですので、通院歴を確認してもらうように言っておきます」  鳴神は八雲の意図を理解し、大山に連絡を要れる。  ――何故、彼女は夜に家を出たのか。何を思い、李菜と会ったのか。  窓の外に目を向けると、止みかけていたはずの雪がまた強くなってきている。  どんよりとした黒い雲――しばらくこの雪は止みそうにない。
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