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八雲が有栖川クリニックをでる頃には、十二時を回っていた。
辺りは雪が積もり、白一色で染められている。
関東地方の中でも太平洋側に位置する茨城県は雪の少ない地域だ。
雪が舞うのは年に数回。積もることは滅多にない。
珍しく積ったとしても、すぐに溶けてしまう。
「八雲さん、送ります」
クリニックを出た八雲を追うように、鳴神も外に出てきた。
「近いから大丈夫ですよ」
ゆるゆると首を振る八雲。
有栖川クリニックは彼女のマンションから程近い所にある。
歩いて帰るとしても、十分も掛からない程度だろう。
「いいえ、送らせてください」
言い切られてしまっては折れるしかない。
ここで鳴神と言い合っていては、彼の仕事に支障をきたしてしまう。
「わかりました。お願いします」
気付かれないように小さくため息をつくと、八雲は頭を下げた。
協力者とはいえ、捜査の前線に立っている刑事に送り迎えしてもらうことに抵抗があるのだ。
「どうぞ」
ドアを開けた鳴神にリアシートを勧められる。
八雲は勧められるままに座ると、シートベルトを締めた。
ゆっくりと車が動き出す。
「近くまでで結構ですよ。早く捜査に戻ってください」
だんだんと自宅のマンションが近付いてくるなか、八雲が鳴神に声をかけた。
まだ、遺体の頭部は見つかっておらず捜索が勧められている。
不審人物や不審車両の目撃者も探しているところだ。
難しそうな顔をしている鳴神に、八雲はそれ以上声をかけられなかった。
「鳴神さんは何で刑事になったんですか?」
自宅のマンション前で車を降りた八雲は、いままでずっと気になっていたことを尋ねた。
知り合ってから約十年。一度も聞かなかったことだ。
八雲は、彼が自分は刑事に向いていないのではないかと悩んでいる姿をみたこともある。
そんな悩みも、事件が動くと考える暇もなく捜査に向かう鳴神を見てきた。
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