雪の四月朔日

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 眠気と戦いながらメールを打ち込み、送信する。  先月まで、友人の仕事を手伝っていたため、本職である鑑定業務が滞っていた。  八雲はとある個人研究施設の研究員で、DNA鑑定や薬品などの成分分析を行っている。  優先順位を付けて仕事を進めていたが、急遽入った依頼は急ぎのものだった。  何度目かのため息をつき、パソコンの電源を落とす。  気付けば一件のメールを送るために、一時間もかかっていた。  時計の針は既に七時を越えている。 (……結局、貫徹してしまいましたね)  どうやら、仮眠している時間はないらしい。  足元からの冷えを感じ、八雲はリビングへと移動した。  温かい飲み物をいれるため、電気ケトルのスイッチをいれる。  ゆっくり背筋を伸ばすと、八雲は気紛れにテレビをつけた。  普段あまり見ることのない朝のニュース番組は、見慣れた景色を映している。  ――茨城県の公園で女子高生の遺体が見つかる!  テロップの文字を目で追い、驚く。  黄色いテープが張り巡らされ、雪色に染まったその現場は、八雲も知っている場所だった。 「先生? 今朝は早いですね」  驚いている八雲の後ろから声がかかる。  同居人の藤峰(ふじみね)花怜(かれん)だった。  彼女の視線がテレビに移る。 「ここ……稲荷神社公園?」  雪に混じり、桜の花びらが舞う公園は、この研究学園都市内にある公園に似ていた。
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