雪の四月朔日

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 袖口から覗いているのは切断された手首。  その断面付近に傷があるのを八雲は確認した。 「リストカットの跡……その上から手首を切断した様ですね。切り取り線みたいに」  切断時に出来たにしては古い傷跡。  ノコギリか何かで切断された手首は皮膚が削られていてわかりにくいが、よく見れば八雲の言うようにリストカットの跡のようだ。  その傷は左手首側にあり、右側は傷が見当たらない。  もし、八雲が言うようにリストカットの傷だとするのなら、被害者は右利きなのだろう。 「よく見てるな、姫さん」  八雲にそう言うと、大山は遺体の手首付近をもう一度調べるように伝える。  少女の体はただそこに横たわっていた。  頭部と四肢を切断され、雪をかぶり、写真を撮られる。 (――生前の彼女はこんなことを予想していただろうか)  そんなことを考えていた八雲の視界がグラリと揺れた。  不規則なノイズ。頭に直接響く音に目を瞑り、耳を塞ぐ。  (まぶた)の裏で再生される、少女の過去。  カチカチと音を立て、カッターナイフの歯が伸びる。  右手に握られたカッターナイフは、左手首を捕らえ赤い線を描く。  ――ぽたり、ぽたり。  身体から溢れた赤。  クラスメートたちの心ない言葉に(むしば)まれていく心。  直接流れ込んでくる過去の映像に、八雲は彼女がいじめられていたのだと知る。  リストカットはそれに耐えかねての事だったようだ。  ノイズがやむと同時に、八雲の体が崩れ落ちる。  隣から伸びてきた手が、雪の上に倒れる体を抱き上げた。 「大丈夫か」
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