ちょっと金貸してくれない?

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「誠に申し訳ございませんが、退職させてもらいます」 次の日、会社に出勤した私は先輩に退職届を叩きつけて、早々に帰宅した。先輩が目を丸くして引き留めに来たが、一切無視してやった。いい気味だ。 父と母に仕事のことについて相談すると、二人とも喜んで許してくれた。二人とも、最近私の顔が暗かったのが心配だったらしい。知らないうちに心配をかけていたみたいで、少し反省した。 失敗ばかりの仕事。大声で怒鳴りつける先輩。いつまで経っても帰ることのできない職場。趣味の裁縫も、お風呂も、愛犬のお世話も、大好きな母と父と話すことすらも、何もできなかった。 目の前が真っ暗に染まり、仕事をする意味どころか、生きる意味さえ失いかけていた。感情もいつの間にか、なくしてしまっていた。 『次のニュースです。先週、香椎山市のプラットホームで投身自殺をした、22歳の会社員、金田真司さんですが、月に200時間を超える残業をしていたことが明らかになりました。勤め先だった山西コーポレーションは黙秘を貫いており、今日調査のメスが入るとのことで……』 テレビの電源を消し、私は新しい履歴書にボールペンで記入を始める。確かに、昔の私に比べて、仕事をする意味だとか、生きる意味なんてのはわからなくなった。働いていた会社のせいで、全部失ってしまった。 でも、昨日それらが少しだけ見つかった気がした。 「……お金、ちょっとぐらいあげればよかった」 暖かい日の光が、私の傷んだ頬に降り注ぎ、表情に笑顔が戻っていく。 せめて、まだあの人の分までは生きようと、私は思った。
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