ちょっと金貸してくれない?

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私は大手の株式会社に務めている、社会人1年目の卵だ。今日もたくさん先輩に怒鳴られて、たくさん仕事を押し付けられて、もうたくさんだ、と職場のトイレで泣いた、その帰り道だった。 運よく終電の電車に間に合い、これでもう全ての悩みから解放されるぞと内心ウキウキしながら、プラットホームでじっと立っていたのに、このハプニング。天はどこまで私を苦しめるのだろうか。 「なぁ、いいだろ? お金貸してくれよ。俺文無しなんだよ。苦しいんだよ」 「私だってお金持ってませんから。まだ社会人として働いて6ヵ月なんですよ?」 会ったこともない、話したこともない人から、この男はお金をせびろうとしてくる。常識的に考えてありえない。 「なぁ、お願い。ちょっとだけでいいから。頼むってマジで」 「嫌です。他を当たってください」 終電のホームには私とこの男以外、誰もいなかった。おかげで助けを求めることもできない。強引に警察を呼ぼうとしたら、危害を加えられるかもしれない。そう思うと迂闊なことができなかった。 「くれって。金。今どうしても必要なんだよ。お願いだから」 「本当にしつこいですよ……いい加減にしてください」 だんだんと苛々してきて、私は感情的になっていった。
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