ちょっと金貸してくれない?

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「だいたい、年下から金をもらうとか、社会的に考えてありえません。社会に出て働いたことなんか、きっとあなたにはないでしょうね。そんな苦労知らずな人にあげる物なんて、何もありません」 感情をむき出しにして、私はしつこく食い下がろうとする男に言葉で噛み付いた。 男は、まだ表情に笑みを残して、言い返してくる。 「おいおい、怖いって。せっかくの可愛い顔が台無しだって。そんな風に怒ったら、俺……怖くて姉ちゃんの財布、奪っちまうかもしれねぇな」 「っ! よ、ようやく正体を現しましたね。お金をせびるどころか、私の財布を奪おうとしてたなんて。ありえません。絶対に警察に突き出してやりますから」 「へへっ、望み通り……やってみろよ!」 そう言うと、男は肩に置いていた手を放し、まっすぐに肩にかけていた私のバッグに手を伸ばした。 私は反射的に身を引いてそれを躱したが、男はすぐさまバッグの紐を引っ掴み、強い力で私からバッグを奪おうとしてきた。 「やめて! 離してよ!」 「へへっ、可愛い声出すじゃん。さっきよりも随分可愛くなったなぁ」 私は身を丸めてバッグを守ろうとしたが、男の力は強く、取られるのは時間の問題だった。 周囲に目を配らせても、人の姿はいない。絶体絶命だった。 『間もなく、電車が到着します。ホームの方々は、電車から離れてお待ちください……』 ホームから流れるアナウンスに、私は、はっと我に帰った。 その瞬間、さらに強い力でバッグは引っ張られて、とうとう男の両手にバッグを譲ってしまった。
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