一匹狼とボス犬①

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一匹狼とボス犬①

「マナの抑制量をもう少し控えたい?」 マナ消費がまだ回復しきらなかった昌磨が寝たのを確認してから、広臣さんに「マナ抑えんのもうちょいどうにかしてえ」と話し掛ければ、少し悩んだ様子でソファーに腰を下ろして手招きするので隣に座った。 「どうしてだ?」 「んっと、オレの武器って銃じゃん? そんでこのめっちゃ抑えて人に気取られるマナ量じゃ銃弾作れねえらしいんだよ」 「まあ、そうだな……。……慶吾には、最低限のマナ量に思われるように抑え込んで貰ってる、それに銃なこともバレないように短剣持ってただろ?」 「……よく忘れる」 「慶吾……」 短剣も使えなくはねえけど、やっぱ速くて楽に出来る銃があるからわざわざ使わねえので存在を忘れがちだ。 そんなことを言えば広臣さんはやれやれ、って様子で頭を掻きテーブルに置いてあったマグカップに口を付ける。 「……マナ量の抑制ってのは、ぶっちゃけマナにマナをぶつけて相殺し消費し続ける荒業だ。慶吾くらいのマナ量が無きゃ普通は出来ないもんだからなあ」 「昌磨も出来るし広臣さんも出来るから、普通に誰でも出来るのかと思ってたわ」 「だがな、慶吾。お前はマナを消費し続け更にマナ量を大量に使う銃だ、それで制限が掛かって数発でマナ量が空になってしまうが、慶吾があまり発砲しなくて良いように目立って欲しくないからマナを抑制して貰ってる……本来なら抑えさせなければ良いんだが」 すまんな、と背中をぽんぽんと撫でられる。 別にオレも目立ちたくはねえから良いし、腹が減れば食うだけで回復するので、燃費が悪い中古車のそれみたいなもので通れば良い。 でもま、話を戻すんだが、銃見られた時の言い訳が欲しい訳で。 「楽するオレが悪いのは重々承知してんだけどさあ、銃見られたらお前のマナ量で撃てるはずなくね? じゃあお前抑制してんの? ってなるのがさあ、面倒なんだわ」 「それは……そうだな。抑制してるとわかれば、少し知識があれば、慶吾のマナ量が多いとわかってしまうが……急にマナ量が増えるとかえって悪目立ちする」 「そっか。毛が生えたくれえのマナ量にしてるもんなあ? そもそもマナ量って増やすこと出来んの?」 「イレイサーとしての鍛練をこなせばな、慶吾も昌磨も徐々にマナ量増えてるだろ?」 「昌磨のはわかるが自分のは全くわからねえかな」 「まあ、それならやり方がある。だったら徐々に抑制を弱めて、1発撃てる分のマナ量だけを他者に気取られる程度にすれば良い」 広臣さんはそこで立ち上がり、オレの肩をぽんと叩いた。 その顔は、たまーにオレらを鍛える時に見せる、満面の笑顔だ、これは不味い、かなりやべえ。 何がやべえって、この笑顔の広臣さんは容赦がねえ、オレにマナ量抑制叩き込んだ時なんかニッコニコしてたがそん時並みにニッコニコしてる。 つまり、超スパルタモードである。 「さあ、これから大変だぞ、慶吾。ただ抑えるだけじゃなく調整して徐々に弱めてくなんて俺なら死んでも嫌だが、お前が銃見られる前提に言うんだから仕方ないな?」 「ひ、広臣さん……え、マジで、そんな辛えならオレやっぱ……」 「俺なら本当に嫌だが、楽をしたい慶吾の為だ、マナコントロールの練習にもなるし、とりあえず2週間で目標達成出来るように段階的に、頑張ろう! ちなみに全く、全然、これっぽっちも、楽じゃないからな!」 笑顔だ、眩しいほどに笑顔だ。 ……もしやオレは、要らんことを言ってしまったのでは無かろうか。 「慶吾、今日のマナ量はもう少し増やし……それは増やし過ぎだ……もうちょい、もうちょい……そこだ! そのままキープ、良いな?」 「ぐ、ぐぬぬ……」 「朝から何やってるんだよ」 朝、オレを文字通り叩き起こし満面の笑顔で支度をさせられてから広臣さんはオレに「マナ量はそれでキープだぞ」と言ってくるのを、若干引いた顔で見てくる昌磨に「マナ量を、増やす練習……」と伝え維持するのに眉間に皺が寄る。 腹の辺りがムズムズする、超ヤバい、普段のマナ量の抑制なら慣れたもんなので気にしてなかった、全力でぶつける感じだったのが、今のはどうだ、全力じゃ駄目、ちょっと力んだら駄目、何これヤバすぎる。 「……父さん、慶吾が痙攣してるんだが」 「そうだな、俺も慶吾があそこまでマゾ気質があるとは思わなかった」 「ま、マゾじゃねえんだが!?」 「はいちょっと多すぎる、抑えて抑えてー」 「ぐぬぬ……!」 ちょっとの刺激でこの様だ、もう目立っても良いから抑えたくねえとすら思う。 唸るオレを哀れんだ視線を送ってから我関せずと言う素振りで、昌磨は新聞を開きテレビを付けてニュースを確認し始めた。 駄目だ、あの中身おっさんの昌磨には頼れねえつーか、頼るもクソもあったもんじゃねえからヤバい。 それから数十分、ようやく感覚を掴んだとこで登校時間になってしまい、「気を付けろよー」と笑顔が絶えない広臣さんに見送られたオレは、ゲームとかで言えばHPがきっと0じゃなかろうか。 「……大丈夫か?」 「起きたてよりはまあ……感覚掴めたし、いやでも、明日はまた違うと思うと死ぬかも知れん」 「お前、本当にマゾ」 「じゃねえよ。うーん、これはだりぃので、朝からサボって午後は教室行くコースです」 「3限目から出ろよ、単位足りなくなるから」 2つはサボって良いと昌磨にしては寛大な判断、相当オレは疲弊しているようで。 学校に着いて人に囲まれる昌磨から離れるように、本日のサボりスポットを探す。 「……今日はあんま天気良くねえから、屋上って気分じゃねえかな」 曇天だ、雨は降る予報は無かったが風も気持ち良くねえし屋上に行っても爽快感は得られねえかも。 どっか落ち着いたとこで、このマナ量の感覚を完璧にしてえな、と校舎に入らずに裏手の方に足を向けたのだった。
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